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天安門事件をタイの“華人社会”はどう報じたか

6/20(木) 12:13配信

Wedge

 毎年、5月末から6月中旬にかけ、天安門事件に関する報道が、我が国のメディアにも溢れる。

 今年は事件から30年目の節目の年であり、習近平政権下で悪化する一方の人権状況に対し内外から強い懸念が表明され、米中間の厳しい対立はエスカレートするばかり。加えるに香港では、身柄を拘束された容疑者の中国本土引き渡しが可能となる「逃亡犯条例」の改定に反対する大規模な街頭デモが連日繰り返されている――であればこそ、1978年末の対外開放以後の中国で悪化する人権状況の“原点”ともいえる天安門事件関連報道が、例年にも増してメディアを賑わせるのも当然だろう。

30年前、天安門事件をNHKはどう報じたか

 だが30年前の天安門事件であれ、現在進行形で繰り広げられている香港の動きであれ、我が国のメディアが激変する事態を“情緒的”に報道するほどに、問題の本質から外れてしまうように思えて仕方がない。

 たとえば天安門事件をリアルタイムで伝える30年前のNHKテレビの特報・特集番組(DVD録画)を見直してみると、特派員や専門家が熱っぽく語っていた「民主化運動は正義の戦いだから成功するはず」「『最高指導者』の●(登におおざと)小平に率いられた保守勢力は後退し、趙紫陽を戴く改革派の政権が生まれるだろう」といった見通しは、現在に至る30年間における権力の一強化と経済の肥大化とによって打ち砕かれてしまった。

 やはり経済発展は民主化を促すという見通しが甘すぎたのは当然としても、“願望というフィルター”を通して複雑な現実を紐解こうとする試み自体が、どだい無理な話ではなかろうか。

タイの華人社会はどう報じたか

 天安門事件前後の数年間をバンコクに住み、同地華人社会の動向を観察していた筆者にとって、天安門事件は中国の変動・変化に対する華人の振る舞いを見届ける絶好の機会だった。「絶好」などという表現は、犠牲者に対し甚だ申し訳ないことではあるが。

 当然、彼ら華人も天安門事件に翻弄される中国人に一喜一憂し、華字紙は激しく反応した。いつもなら「莫談政治(政治を語る莫れ)」を貫く彼らだが、やはり行動せざるを得なかったのだろう。華字紙は連日北京における動きを詳細に報じ、社説で事件に対する自らの見解を明らかにし続けた。「中国人は中国人を殺すな」と叫ぶデモ隊が中国大使館に押し掛け、中華系寺院では犠牲者を追悼する法要が盛大に営まれ、華人社会の指導的立場にあった企業家も参加し仏前に手を合わせていたことを思い出す。

 だが、我がメディアのように浮足立つことはなく、華字紙は権力闘争の推移を冷静に見極めながら事実報道に務めていたように思う。社説もまた我がメディアのように“原理原則”を自己満足気味に説き続けるのではなく、事態の推移に臨機応変に対応していた。

 それというのも中国は華人にとっては父祖の地であり、体内を流れる血のルーツであり、であればこそ中国人は外国人でありえず、とどのつまりは《自己人(なかま)》だからだろう。彼らにとって事件は、やはり他人事ではなかったはずだ。

 いま当時のメモを読み返してみると、華字紙の論調が天安門広場を取り巻く状況の変化に応じて微妙(巧妙?)に軌道修正していることに改めて驚かされる。

 当初は開放政策による中国の発展を歓迎する一方で、インフレが庶民生活に打撃を与えるにもかかわらず、開放の果実が共産党幹部による不正によって独占的に摘み取られている――開放政策を歓迎しながらも共産党幹部による不正を批判し、学生の行動を強く支持し、共産党政権による早急な政治改革を求めていた。

 だが、事件発生から半月ほど前の5月20日前後を境に状況は緊迫の度を加える。天安門広場を埋めた学生らの行動は過激化し、これを「暴乱」とする政府が戒厳令を布いたのである。

 この段階に至って華字紙の論調は変化を見せる。共産党政権に対しては学生側との「対話」を、学生側には性急な行動を慎むことを求めている。

 事件発生前日には強硬手段による「暴乱」の鎮圧を予想したのであろう。「●(登におおざと)小平、李鵬、楊尚昆ら強硬派が政府の大勢を押さえた以上、学生による広場からの撤収こそが『予測し難い悲惨な結果』を招かない最も現実的な方法だ」との主張が見られた。

 だが学生が教室に戻る以前に、広場に向かって人民解放軍の戦車が動き出したのである。

 事件発生の報を受けた華字各紙の一面には、「天安門発生流血衝突」「血染天安門 暴行驚全球」「血賤北京城 武警向人群発射催涙弾棍棒打脚 百万人民奮起築人墻保衛天安門」などの文字が躍った。

 タイ最大の華人団体である中華総商会は「中国政府が速やかに流血行動を停止することを懇請する。(10年来の開放政策の結果としての)成果を共同して守ることが破壊から中国を救うことだ。それが中国と中国人民の幸福である」との公開書簡を、在タイ中国大使館を通じて中国政府に送っている。おそらく、これが事件に対するタイ華人社会の総意だったのだろう。

 以後、天安門広場を中心とする北京における惨状が次々に伝わるや、華字各紙は中国政府に「最大限の自己規制と再度の武力不使用」を呼びかける一方で、●小平らへの批判を強める。

 だが●小平ら強硬派主導で混乱が収まり事態が鎮静化に向かうや、「学生を殺害した軍隊以外、個人名を挙げてどのように罵倒すればいいのか」と、中国政府批判をトーンダウンさせる。その一方で、「中国を孤立させ、再び閉塞・後退の道を歩ませるな。全面的経済制裁が招く悲惨な結果を考慮せよ」と、経済制裁を科す欧米諸国を非難した。

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最終更新:6/20(木) 12:13
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