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米ドラ1投手ソフトバンクと契約させた大物代理人の思惑

6/20(木) 12:20配信

Wedge

 見事にプロ初登板初勝利を挙げた日本ハムのドラフト1位新人・吉田輝星の次は、この外国人ルーキーのデビュー戦を見てみたい。5月にソフトバンク入団が発表された東フロリダ短大の本格派右腕投手カーター・スチュワート(19歳)である。昨年の全米ドラフト1巡目、全体8位でアトランタ・ブレーブスに指名されながら交渉が決裂し、来年のドラフトを待たずに日本行きを選択した“MLBドラ1”の逸材だ。

 本来ならメジャーリーグの球団に入団するはずだった新人が日本の球団と契約し、日本でデビューするケースは日米双方の球史初のこと。少々大袈裟かも知れないが、“歴史的事件”と言ってもいい。何故このようなことが現実になったのかと言えば、スチュワート本人と両親の意向に加えて、メジャーのドラフト制度に最大の要因がある。もっと言えば、その制度に不満を抱いたスチュワートの代理人の思惑も働いているようだ。
スチュワートは198cm、91kgの体格を誇り、160km近い真っ直ぐと緩急をつけられる変化の大きなカーブが武器。中学、高校時代からメジャーに注目されており、昨年6月のドラフト1巡目でブレーブスに指名された。が、身体検査で右手首に異常が見つかり、契約金を200万ドル(約2億170万円)程度に抑えられたという。

 アメリカのドラフト会議では指名後1カ月までに選手と契約できなければ、球団の交渉権が消滅する。その後、選手がMLB球団に入りたいなら翌年のドラフトを待たなければならないが、それ以外のリーグや国外の球団との交渉は自由だ。そこで、過去にも数々の大型契約を結んできた辣腕代理人スコット・ボラス氏(写真左の人物)は、ブレーブスの交渉期限が切れた昨年7月以降、日本の球団にスチュワートの売り込みを続けていた。

 この話を聞いたソフトバンクはアメリカに編成担当を派遣。スチュワートが実際に短大の試合で投げる姿をチェックした上で、最終的に孫正義オーナーが獲得を決断している。ESPNなど米国メディアの報道によれば、6年契約で総額700万ドル(約7億5600万円)、出来高を含めた最高額は1200万ドル(約12億9600万円)に達するという。

 これがいかに破格の契約内容か、アメリカと比べれば一目瞭然だろう。MLBはどれほどのスーパールーキーでも、ドラフト指名選手にはマイナー契約しか認めていない。しかも、新人の契約金総額まで球団ごとに規定されており、この上限を越えると“ぜいたく税”を徴収される決まりになっている。そのため、1年目の年俸は正味5500ドル(約59万4000円)。毎日支給される25ドルのミールマネー(食事代)込みでも、1000ドル(約108万円)に届かないのが実情だ。

 米国メディアの試算によると、もしスチュワートがブレーブスと契約し、3~4年後にメジャーでプレーできるようになっても、6年間の収入総額は400万ドル(約4億3200万円)程度にとどまる可能性が高いという。ソフトバンクはその3倍もの条件を提示した勘定で、当然それだけ代理人ボラス氏の取り分も違ってくる。金額だけ比較したらどちらがメジャーなのかわからないほどだ。

 もっとも、スチュワート本人と彼の両親によれば、決してお金だけでソフトバンク入団を決めたわけではないという。スチュワート家の近所にはソフトバンクの駐米スカウト、マット・スクルメタ(元ダイエー、楽天投手)が住んでおり、家族ぐるみの付き合いをしていて、スチュワートが13歳のころから個人的に野球を教えてもらっていた。スクルメタはホークスについても様々な話をスチュワートや両親に聞かせたそうで、そのころから本人にも親にも日本に対する興味や関心が芽生えていたらしい。

 ソフトバンク入団を決める前には両親ともども来日し、福岡に足を運んで球団の施設を見学。長年、チームの守護神として活躍し、2017年のMVPに選ばれたデニス・サファテにじっくり話を聞いたという。東京スポーツの両親に対するインタビュー記事によると、サファテは自分と夫人の携帯電話の番号まで両親に渡し、日本でスチュワートの相談相手になると請け合ったそうだ。

 この背景にはもちろん、ヤンキース・田中将大、ドジャース・前田健太、カブス・ダルビッシュ有、マリナーズ・菊池雄星、さらに二刀流のエンゼルス・大谷翔平など、日本が多くの大リーガー投手を輩出している時代の趨勢もある。

 振り返れば、2012年のドラフト前、大谷が日本のプロを経ずに直接メジャーに行きたいと表明すると、日本ハムはあえて1位指名を強行。自分たちの育成システムがいかに優れているかを説明し、日本で実績を築いてからのほうがメジャーで成功する確率が高まる、と説得した。ソフトバンクがハードとソフトの両面において申し分ない環境にあると確認したスチュワートも、当時の大谷と似たような心境で日本行きを決断したのではないか。

 ただし、ソフトバンクと契約している6年間、スチュワート本人が希望してもメジャー球団に移籍することはできない。日本人選手のようにポスティングシステム(入札制度)でメジャーに行けるのは、6年の契約期間を満了してからになる。

 そこで私が思い出すのは、6年前の13年、ソフトバンクから去って行った台湾人の左腕投手、陽耀勲(ヤン・ヤオシュン、巨人・陽岱鋼の実兄)である。05年に22歳でソフトバンクに入団した陽は、最速155km、平均140km台後半の速球を武器とする本格派だったが、制球難でなかなか勝ち星がついてこず、12年に契約更改しないで台湾へ帰国。翌13年に突然「今シーズン終了後にメジャー移籍を容認してほしい。認めてくれなければ契約しない」と言い出したのだ。

 当時、私が取材した球団関係者によれば、このとき陽の代理人を務めていたのが、ほかならぬボラス氏だったのである。陽は翌14年、念願叶ってMLBのピッツバーグ・パイレーツとマイナー契約を結んだが、オープン戦で打ち込まれてしまい、2Aチームで開幕を迎え、7月には解雇。その後、台湾に帰国し、左肩を壊したために外野手に転向、現在はラミゴ・モンキーズというプロ球団で現役を続けている。

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最終更新:6/20(木) 12:20
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