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武士道精神を継承するフランス柔道

6/21(金) 15:02配信

nippon.com

溝口 紀子

フランスで柔道は子どもたちの人気競技で、彼らに対する道徳的指導を重視している。そこには日本で失われつつある柔道本来の姿があると、同国でコーチ経験がある筆者は考える。

2017年度のフランス柔道連盟の登録者数は60万4816人(※1)で、柔道は同国でサッカー、テニス、バスケットボール、馬術に次いで5番目に人気のある競技だ。本家である全日本柔道連盟(全柔連)の登録者数約15万人よりも圧倒的に多い。

(※1) フランス統計経済研究所より。

フランスには5700のクラブ(道場)があり、そこに登録している約75%が10代の子どもたちである。そのためフランス柔道連盟では、彼らへの道徳的、教育的指導を重視している。注目すべきは独自の取り組みとして、コードモラル(Code moral)という8つの行動規範を設定し、指導指針にしていることだ。一つ一つの規範には日本語の漢字表記が使われるなど、フランス柔道が日本の道徳観念から強く影響を受けていることがうかがわれる。

また現在、オリンピックで2連覇中のテディ・リネール(ロンドン・リオデジャネイロ五輪男子100キロ超級優勝)のような国民的スター選手も輩出している。

柔道は異国の地フランスで、どのように普及したのか。そして、なぜフランスは日本を超える柔道大国になったのか。柔道の歴史をたどりながら考えてみる。

柔術・柔道を海外に普及させた先人たちの功績

明治時代、柔術や剣術などの武術は、日本においては「武士文化」を継承するための役割を担った。当時、柔術の保存に取り組んだ重要人物が嘉納治五郎だった。嘉納は、武士の文化が衰退する中で柔術をはじめとする武術の保存・継承に努めた。それは日本の美的伝統の数々を保存しようとしたフェノロサや岡倉天心の考えと軌を一にしていた。嘉納は岡倉天心と同じ1877(明治10)年、東京大学文学部に入学し、後に学習院の教頭や東京師範学校の校長を務めた。

また当時の欧米では、とりわけ柔術が「武士道」の系譜として捉えられていた。82年に講道館を創設した嘉納は、89年に宮内省からの命で欧州の教育事情を視察する傍ら、1年半近くの欧州滞在中、各地で講道館柔道のデモンストレーションを行っている。嘉納の弟子の山下義韶(よしつぐ)は1903年から07年まで米国に滞在し、シアトル、シカゴ、ニューヨーク、ワシントンで柔道の普及活動を行った。その時にセオドア・ルーズベルト米大統領も講道館の薫陶を受けている。クリストファー・ベンフィー(※2)の著書(※3)では、ルーズベルトがウィリアムス・スタージス・ビゲロー(※4)の紹介で柔術を学び、ホワイトハウスに専用道場を設営していたことが紹介されている。

柔術が海外に伝播(でんぱ)されることで、「武士道精神」は日本だけでなくフランスなど海外においても涵養(かんよう)された。当時、柔術と柔道は区別されることなく、武士道にのっとる日本の格闘技として世界各国で受け入れられていた。フランス柔道連盟の正式名称は、「Federation francaise de judo-jujitsu et disciplines associees」である。訳出すると「フランス柔道柔術連盟」となる。現在もあえて「柔術」を明記しているのは、フランス柔道の源流が柔術に依拠しているからだと考えられる。

それ以降、柔術・柔道を欧米に直接伝えたのは、主に限られた特権階層の日本人だった。フランスでは、杉村陽太郎(イタリア大使・フランス大使・国際オリンピック委員会委員)、石黒敬七(ジャーナリスト・随筆家)、藤田嗣治(画家)がパリを中心に活動していた。

また、柔術家、柔道家も海を渡った。英国では、谷幸雄(不遷流)、小泉軍治(天神真楊流)が指導者となった。とりわけ小泉は、ロンドン武道会を創設した。フランスでは、講道館の川石酒造之助(みきのすけ)がフランス流に独自の柔道教授法を考案し、後に「フランス柔道生みの親」と呼ばれるようになる。また野口清(帝国尚武会)は欧州で整復技術と柔術を普及させている。このように戦前にはすでに柔術・柔道が欧州で認知されていたのである。舶来文化の柔術・柔道を欧州に根付かせたのは、100年以上も前からの先人たちの功績と言っても過言ではない。

(※2) Christopher Benfe。ホールヨーク大学英米文学教授。文芸・美術評論家。

(※3) The Great Wave: Gilded Age Misfits Japanese Eccentrics and the Opening of Old Japan.

(※4) William Sturgis Bigelow。米国の医師、日本美術研究家。

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最終更新:6/21(金) 15:02
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