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武士道精神を継承するフランス柔道

6/21(金) 15:02配信

nippon.com

真価が問われる2020年東京五輪・パラリンピック

柔道が国際化する中で、国内外に「正しくないJUDO」が普及していると指摘する声がある。「正しくないJUDO」とは、1964年に五輪種目に採用されたことで試合結果に重きを置くようになった柔道のことで、勝利至上主義に陥ってしまった柔道を批判する際に使われることが多い。「正しい柔道」とは嘉納の理想を体現した柔道のことを指す。彼は試合そのものには最大の価値を見いだしていなかった。嘉納が掲げた講道館柔道の理念は、「精力善用」「自他共栄」である。「精力」とは心身のことで、「善用」とは良い目的のために使うことだ。つまり、柔道で鍛えた心身を良い行いをするために使おうということである。そして自分だけでなく、他者と助け合いながら良い社会を作っていこうという教えだ。

そこには失われてしまった武士道精神を柔道によって後世に伝えていこうという嘉納の意志が感じられる。

世界の柔道界が嘉納の理想とかけ離れていく中で、フランス柔道界にはまだ「正しい柔道」の姿が色濃く残されているように思える。8つの行動規範に見られるように、高邁(まい)な精神性がそこには存在するからだ。

フランスでは、教育的観点から12歳以下の子どもの全国大会を開催していない。子どもたちの柔道による死亡事故はゼロだ。まず畳の上でゴロゴロ転び、投げられる恐怖心を除く。一方日本では子どもたちに早く試合をさせたいため、受け身の習得と言いながら、いきなり投げられることを体験させる試合至上主義の指導者がいる。そのため2010年には「毎年、柔道事故で約4人の子どもが亡くなり、約10人が重い障害を負っている」と指摘を受けたほどである(※7)。

女子柔道強化選手15人が指導陣による暴力行為やパワーハラスメントを受けた事件をきっかけに、2013年、全柔連の助成金不正受給や名門大学柔道部の暴力事件など一連の不祥事が明らかになり、全柔連は組織の再構築を行った。いよいよ来年、2020年東京五輪・パラリンピックが開催されるが、日本の柔道界は「暴力体質」を克服できたのか。嘉納が掲げた理念を体現できるのか。柔道の聖地で開催されるオリンピックは、金メダルの数だけでなく、日本柔道の真価が問われる大会でもある。

(※7) 内田良著『柔道事故』(河出書房新社、2013年)

【Profile】

溝口 紀子 MIZOGUCHI Noriko
日本女子体育大学教授。全日本柔道連盟評議員。専門は、スポーツ社会学。1971年、静岡県生まれ。92年バルセロナ五輪女子柔道52キロ級銀メダリスト。2002~04年、日本人女性初のフランス五輪代表柔道チームのコーチを務める。15年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。静岡文化芸術大学教授を経て、18年より現職。主な著書に『日本の柔道 フランスのJUDO』(高文研、2015年)、『性と柔:女子柔道史から問う』(河出書房新社、2013年)など。

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最終更新:6/21(金) 15:02
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