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ブロードウェイ・ミュージカルの名曲をジャズマンが演奏する理由【ジャズを聴く技術】

6/21(金) 15:02配信

サライ.jp

第11回スタンダードの「供給源」|ブロードウェイ・ミュージカルとグレイト・アメリカン・ソングブック

文/池上信次


今回は「スタンダード曲」の「元ネタ」について。前回までに紹介したスタンダードの元ネタは、ソウルのヒット曲(「イズント・シー・ラヴリー」)やアニソン(「いつか王子様が」)、シャンソンのヒット曲(「枯葉」)などでしたが、ジャズ・スタンダード曲の発祥でもっとも多いのは、ニューヨークのブロードウェイ・ミュージカルでしょう(その次は映画)。

1900年代初頭からニューヨークのブロードウェイは劇場街として発展してきました。20年代に隆盛を迎え、現在までアメリカにおいてミュージカルは常にヒット曲の大きな「製造元」のひとつです。ジャズの世界に限ってみると、50年代半ばのロックンロールの登場(とそれに伴うジャズ界の変化)までは、ブロードウェイ・ミュージカルはスタンダード曲の最大の「供給源」だったといえます。ミュージカルがヒットするとその曲が注目され、多くのカヴァー・ヴァージョンが演奏されたりレコードが作られたりし、さらにそれが広まっていくというのが「スタンダード化」への道のりです(第7回で紹介した「オール・ザ・シングス・ユー・アー」のようにヒット曲ではないものもありますが、これは例外といえるでしょう)。もちろん、ジャズの中心地がブロードウェイの同じ界隈だったことも、大きな理由のひとつですね。

ミュージカル曲がスタンダード化する理由

さて、名曲は数々あれど、スタンダード化するのはなぜミュージカル曲が多いのか。そこには理由があります。もともとミュージカルの楽曲は、歌手や演奏者のためではなく、「ミュージカル作品」のために書かれています。したがってヒットしても特定の歌手や演奏者のイメージが付いていないのですね。あったとしても、それ以上に「作品」のイメージが大きく、これが一般のポップス・ヒット曲とは大きく異なるところです。ここがジャズマンにとっては好都合。「色」が付いていないほうが、歌でもインストでも存分に個性を発揮できるということなのです。言い換えれば、ミュージカル曲はもともと「汎用型」なのですね。また、演奏者のキャラクターに寄りかかっていないので、純粋に楽曲そのもので勝負している。つまりヒットするということは、まさに「名曲」であることの証明といえるでしょう。

では、ミュージカル発祥のジャズ・スタンダードにはどんな曲があるかというと……

「ふたりでお茶を」「朝日のようにさわやかに」「ラヴ・フォー・セール」「バット・ノット・フォー・ミー」「エンブレイサブル・ユー」「アイ・ガット・リズム」「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」「アローン・トゥゲザー」「エイプリル・イン・パリ」「夜も昼も」「サマータイム」「ビギン・ザ・ビギン」「マイ・ロマンス」「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「わが恋はここに」……と、思いつくままに15曲挙げてみましたが、ジャズ・ファンでなくとも、きっといくつかはご存じではないでしょうか。ここに挙げた楽曲はすべてブロードウェイ・ミュージカルの曲で、しかも1920~30年代に発表されたものです。そしていまだにジャズでは演奏されつづけており、まさにジャズ・スタンダード中のスタンダードといえるものです。

これらを作っていたのは職業作家たちです。作曲家ではジョージ・ガーシュウィン、ヴィクター・ヤング、ヴァーノン・デューク、ジェローム・カーン、リチャード・ロジャース、シグムンド・ロンバーグ、作詞家ではアイラ・ガーシュウィン、オスカー・ハマースタイン2世、ネッド・ワシントン、ロレンツ・ハートらがよく知られるところです。多くは作詞・作曲は分業ですが、2004年に伝記映画『五線譜のラブレター』が制作されるほどのブロードウェイの象徴的存在であるコール・ポーターは、作詞も作曲もこなす才人でした。

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最終更新:6/21(金) 15:02
サライ.jp

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