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ラグビー日本代表宮崎合宿を包む緊張感と「明らかになった課題」

6/22(土) 10:11配信

FRIDAY

今度もここに訪れた。ワールドカップ日本大会開幕を9月20日に控え、ラグビー日本代表が6月10日から宮崎県内での合宿を本格始動させた。

宮崎駅から「宮崎交通」のバスで北東へ走ること約30分。やや閑散とした道路の先に見えてくるのは、シェラトン・グランデ・オーシャンリゾートだ。各国の富裕層にはリゾート施設と目されそうだが、この国でトップのラグビー選手はここを長らく修行の場としてきた。

2011年のニュージーランド大会を1分3敗としたジョン・カーワン元ヘッドコーチは、近隣の海岸を気に入った様子。2015年のイングランド大会で歴史的3勝を挙げたエディー・ジョーンズ前ヘッドコーチは「私はサーフィンをしたことがありません」と前任者との違いを示し、ホテル、ジム、グラウンドが徒歩圏内に揃う環境をフル活用する。たいてい「ヘッドスタート」と呼ばれる早朝トレーニングを皮切りに、1日3回は練習した。

特にイングランド大会直前のキャンプは、指揮官から選手への心理的圧力と相まって過酷を極めた。その頃を知る選手の何人かは、時間が経っても宮崎にある種のトラウマを負う。

2016年秋に就任のジェイミー・ジョセフ現ヘッドコーチも、この空間での鍛錬を好んできた。自国開催のワールドカップを控えた今年は冬から東京、沖縄、オーストラリアなどで基本動作の反復や強化試合を重ね、春が終われば約60名いた候補選手を42名に絞り、その大半を南国入りさせた。

今度の初回合宿は休息日を含めて19日まであり、以後は23日から7月3日、7月7日から17日までのキャンプが宮崎で行われる。7月下旬以降は環太平洋諸国、アメリカ大陸諸国代表とのパシフィック・ネーションズカップが開かれる予定で、その間、イングランド大会で活躍した山田章仁ら現時点でのリスト外選手は、国際リーグのスーパーラグビーや国内トップリーグのカップ戦などで逆転当選へのアピールを続ける。

現時点での合宿帯同が叶ったプロップの具智元は、武者震いした。

「このなかから(大会登録メンバーが)選ばれ、(それ以外の選手が)外れる。毎日、緊張感のなかでやっています」

宮崎での、朝昼の練習で時間が割かれたのは、格闘技的要素を重視したコンバットトレーニング、陣形や各人のランコースをアップデートした攻撃システムの確認など。長時間の走り込みもおこなわれた。

さらに概ね非公開でおこなわれる夜間練習では、球を奪い合うフォワード、球を回すバックスのポジション別メニューが実施される。特にフォワードはスクラム、ラインアウトという攻防の起点をチェックする。

大会で予定される予選プール4戦中3戦がナイトゲームだから、暗闇と照明のもとで汗を流すのは必須のシミュレーションかもしれない。

フォワード側でフランカーの布巻峻介が「僕のなかでは、ナイターゲーム(対策)に慣れることよりスクラムにフォーカスする意識です」とする一方、バックス側でスクラムハーフの流大はこう続ける。

「もちろん毎日、疲労はたまったままですけど、そのなかでも最大限できるリカバリー(回復)をして臨んでいます」

夜間練習があると、十分な整理運動をしても筋肉のほてりで寝つけないこともあるようだ。ジョーンズ時代からナショナルチームに携わる井澤秀典トレーナーは「(1日複数回ある)練習の合間、合間にしっかりと休息をとることが大事。どうしても眠れなくなる選手もいますが、睡眠をとるように伝えています」とし、自身も本番でのコンディショニングに向け準備を施すという。

「19時台の試合が3つもある以上、夜の練習はチームとして必要なこと。これから(合宿で)出てくるであろう(体調管理上の)問題をすべて拾って、本番の準備に繋げたいです」

13日午後の公開練習では、実戦形式セッションの直後にランニングが敢行された。ここで「あとたったの3周だよ!」などと仲間を鼓舞したのは、リーダー格の流だった。恥骨を痛めて離脱中のリーチ マイケルキャプテンが復帰後もプレーに専念できるよう、ムードを作る。選手が主体的に組織を活性化させる雰囲気は、過去の代表と比べても最高レベルと目されている。

さらには代表候補全体の国際経験や海外勢への耐性も、イングランド大会時以上と見てよさそう。国際リーグのスーパーラグビーへ日本のサンウルブズが加盟して4季目に入ったのだから、それも自然の流れだ。

検討課題は、むしろ本番までの計画にありそうだ。

昨季まで日本代表のディフェンスコーチだったジョン・ブラムツリーは、薫田真広強化委員長に「必要なコーチ」とされながら今回の隊列には加わっていない。今回その役職に就くスコット・ハンセンは、サンウルブズのヘッドコーチ代行をしていたため19日までの第一クールには合流できなかった。いまのチームはキックを蹴った先で組織的に圧をかけるのだから、防御ラインの立ち位置や飛び出し方はいちはやく緻密に共有したいところだ。

強化ポイントには他に、レフリングへの対応力がある。いまなおファンから支持されるジョーンズは、南アフリカ代表との初戦で笛を吹くジェローム・ガルゼス氏を来日中の8月に宮崎合宿へ招聘。判定の仕方について、選手が質問を投げかけた。ジョセフ体制もこれまでの練習にレフリーを招き選手の感度を磨こうとしてきたが、昨秋のイングランド代表戦では試合途中に変質した接点周辺での判定基準に対応しきれなかった。試合ごとの担当レフリーが明らかになる大会直前期には、この領域でさらなる一手が期待される。

防御面の指導について、布巻は「そこはジェイミーがカバーしてくれているので大丈夫」と即答。さらに中村は、判定への対応力は自分たちの感覚に委ねる所存か。防御時のジャッカル(接点で球を奪うプレー)に関する談話のなかで「レフリーについては毎試合、(担当者が)違うので、試合のなかでコミュニケーションを取っていくところにフォーカスする。いまはまず獲るところ(ジャッカルの姿勢や方法など)を意識してやっています」と強調していた。

そんな選手たちの総意を、合宿前の流はこうまとめていた。

「スタッフのプランニングを僕は100パーセント信じています。自分たちがすべきことをするだけです」

振り返れば、4年前のイングランド大会前の6月頃もスーパーラグビーのハイランダーズで活動中だった田中史朗は「最後は信じたいので、話し合いたい」と吐露。国内滞在組が苛烈な宮崎合宿に苦しむなか、ジョーンズとの信頼関係の強化を急務としていた。その際の宣言が「最後は信じたい」で、その向こう側に大勝利と空前のラグビーブームがあった。

必ず成功するプランなど存在しないなか、成功を信じてそのプランを進めることで初めて成功に近づける…。その普遍に選手が気づいていそうな点は、前回大会前、今回大会前で共通している。

所属するグループをよりよくしようとする心と、所属するグループの総意を信じる心。このふたつの心を矛盾せずに並び立てるのが、いまの日本代表だ。

取材・文・写真 向風見也
スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

最終更新:6/22(土) 10:11
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