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かつてはぜいたく品だった歯ブラシの驚きの歴史

6/24(月) 17:49配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

リサイクルが難しい生活必需品、プラスチックの物語

 昔は海岸にプラスチックごみが落ちていることはめったになく、ときどきストローやテイクアウト用容器が見つかる程度だった。ハワイの海岸で清掃活動を行っている「サステイナブル・コーストラインズ・ハワイ」の設立者カヒ・パカロ氏はそう言った。けれどもある日、彼は海岸で意外なごみを拾った。歯ブラシだ。

ギャラリー:プラスチックごみに翻弄される動物たち、写真10点

 今では、ハワイのどの海岸で清掃を行っても、20本から100本の歯ブラシを拾うことが珍しくないという。

 理由は簡単だ。1930年代に最初のプラスチック製歯ブラシが作られて以来、その生産・使用・廃棄量が年々増加しているからだ。

「私はよく『あなたが毎朝最初に触れるものはなんですか?』と尋ねます。たぶんそれは歯ブラシでしょう」とパカロ氏は言う。「毎日最初に触れるものがプラスチックなんて、どうなのでしょうね」

 歯ブラシに相当するものは何百年も前からあったが、当時は天然素材から作られていた。しかし、プラスチックの革新に浮かれていた20世紀初頭に歯ブラシメーカーがナイロンやその他のプラスチックを使用するようになると、天然素材のことはすっかり忘れてしまった。

 今や、プラスチックは歯ブラシのデザインになくてはならないものであり、私たちは合成樹脂に触れることなく歯磨きができないほどになっている。そして、プラスチックは基本的に分解されないため、焼却されたりしない限り、1930年代から今日までに製造された歯ブラシのほとんどすべてがごみとして地球のどこかに残存している。

 今、一部のデザイナーは、私たちの生活に欠かせない歯ブラシという日用品を、もっと地球に優しいものにする方法を模索している。しかし、歯ブラシ問題の解決策を見出すためには、この状況に至る経緯を理解しておく必要があるだろう。

史上最高の発明?

 私たちはきれいな歯が大好きだ。人道的な発明を支援するレメルソン財団と米マサチューセッツ工科大学が2003年に実施したイノベーション・インデックス調査では、歯ブラシは「自分にとってなくてはならない発明品」のランキングで自動車やパソコンや携帯電話より上位に入った。

 人間は大昔から歯をきれいにする方法を求めていた。考古学者は古代エジプトの墓で爪楊枝を発見している。ブッダは、棒の端をかんでブラシ状にほぐしたもので歯磨きをしていた。古代ローマの博物学者である大プリニウスは、「ヤマアラシの針毛で歯をほじると歯が丈夫になる」と書いているし、ローマの詩人オウィディウスは、毎朝歯をすすぐのは良いことだと言っている。

 15世紀末、中国明朝の弘治帝は歯の手入れに余念がなく、今日の歯ブラシによく似た道具をデザインしている。それは、骨や木でできた持ち手に、豚の首から剃り落とした剛毛を密に植え込んだものだった。

 このシンプルなデザインは何世紀にもわたって本質的に変わらなかったが、誰にでも手に入る品物ではなかった。豚の毛も骨の持ち手も高級で高価な素材だったため、歯ブラシを持てるのは金持ちだけだった。それ以外の人は、棒や布や自分の指を使って歯のケアをするか、あるいは何もしなかった。1920年代初頭になっても、米国人の4人に1人しか歯ブラシを持っていなかった。

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