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後を絶たない「ジェンダー炎上」 その分類から対策を見通す

6/24(月) 6:00配信

日経クロストレンド

 最近、女性を性的対象としたエロ・セクシュアルな表現や女性だけが家事・育児をするのが当然であるといったステレオタイプ的な表現など、ジェンダー(性差)表現に関する広告がいくつか問題視されている。フランテック法律事務所代表の金井高志弁護士に、多様な受け手から共感が得られないような宣伝広告の問題について聞いた。

 宣伝広告においては、女性や高齢者、年少者、外国人など多様な受け手がいることから、こうした受け手を意識し、それらの者からの共感を得られるような表現を心掛けることが求められている。ところが最近、多様な受け手からの共感が得られないような宣伝広告、特にジェンダー表現に関する広告がときどき制作され、世間を騒がせている。

Q1 どのようなジェンダー表現に関する広告が問題視され、炎上しているのか?

A1 最近になって初めて、ジェンダー表現に関する広告が問題視され、炎上するようになったわけではない。日本において、最初に問題となった事例としては、1975年に公開されたハウス食品工業(現:ハウス食品)のインスタントラーメンのテレビCM「私作る人、僕食べる人」が挙げられる。

 このテレビCMの内容は、インスタントラーメンが置いてあるテーブルの前に男女が並んで椅子に座り、女性が「私作る人」と言うと、男性が「僕食べる人」と言うもので、食事は女性が作るという性役割を前提とするものである。

 このハウス食品のテレビCM以降も、ジェンダー表現に関する広告について問題視され、炎上する事例が繰り返されている。とりわけ、SNSが普及した最近では、ジェンダー表現に関する「広告の炎上」(以下「ジェンダー炎上」という)がしばしば発生している。

 例として、17年に公開されたサントリーの新製品ビール「頂<いただき>」のインターネット動画が挙げられる。この動画の内容は、女性が「コックゥ~ん! しちゃった」と言いながらビールを飲むといった、女性との性行為を連想させるものであった。19年になってからも、トヨタ自動車が自社の公式Twitterアカウントにおいて、「女性ドライバーの皆様へ質問です。やっぱり、クルマの運転って苦手ですか?」とツイートし、女性は車の運転が苦手というイメージを押しつけるものとして、炎上した事例がある。

Q2 なぜジェンダー炎上するようになってきたのか?

A2 既に紹介した通り、ジェンダー表現の問題視・炎上は、新しい問題ではない。ただ、最近は、以前はあまり問題とされなかったような表現についても炎上するようになり、さらには、女性を応援する目的の広告であっても、潜在的に女性の性役割やイメージを固定する表現がなされているものについては、問題視され、炎上するようになってきている。

 これにはさまざまな要因が考えられる。法制度的な背景としては、85年に、男女の完全な平等の達成に貢献することを目的として、女子に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念とする女子差別撤廃条約が締結されたことがある。そして学校教育においても、男子は電気・機械などの技術科、女子は被服・食物などの家庭科を学ぶという男女別の教科だったものが、90年代以降、家庭科の男女共修が実施されるなど、教育課程に変化があったことなどがある。これらの事情が一因となり、表現の受け手のジェンダーに関する感覚が鋭くなってきたことが考えられる。

●ジェンダー炎上は2つに大別される

Q3 ジェンダー炎上についてはどのように分類することができるか?

A3 ジェンダー炎上について、(1)性行為を連想させる表現を用いたり、広告に注目させるための視覚的要素(アイキャッチ)として女性を扱ったりする類型である「エロ・セクシュアル型」、そして、(2)家事・育児は女性がするものといった性役割を固定化したり、女性は美しくあるべきといったイメージを固定化したりする類型である「ステレオタイプ型」の2つに大きく分類することができる。

Q4 エロ・セクシュアル型としてはどのような事例があるか?

A4 エロ・セクシュアル型については、既に紹介した、女性が「コックゥ~ん! しちゃった」と言いながらビールを飲むといった、女性との性行為を連想させるサントリーの新製品ビールのインターネット動画が挙げられる。また、鹿児島県志布志市がインターネット上に公開した動画「少女U」もこのタイプに分類できる。この動画は、真夏のプールで「養って」と訴えるスクール水着姿の少女に対して、男性が食事や住環境を提供していたところ、翌年の夏、少女は「さよなら」と別れを告げてプールに飛び込み、その姿は1匹のうなぎに変わっていたという、うなぎを少女に擬人化して育てるという内容であった。この動画に対し、「児童ポルノである」「女性を商品化している」などの批判が浴びせられた。

 エロ・セクシュアル型の特徴としては、性行為を連想させる言葉を用いる必要性や女性をアイキャッチとして扱う必要性が全くないのにもかかわらず、あえてそのような内容を盛り込んでいるという点にある。

Q5 ステレオタイプ型としてはどのような事例があるか?

A5 ステレオタイプ型については、(1)家事・育児は女性がするものといった「性役割固定化型」と(2)女性は美しくあるべきといった「イメージ固定化型」に分類することができる。そして、(2)のイメージ固定化型については、さらに、(i)広告主の持つ女性についてのイメージを押しつける「押しつけ型」と、(ii)イメージ固定を前提にして対象を軽視・揶揄(やゆ)して笑いをとる「イジリ型」に分類することができる。

 (1)の性役割固定化型としては、ユニ・チャームがインターネット上に公開した、紙おむつ(ムーニー)の広告動画が挙げられる。この動画は、新米ママが1人で育児に奮闘している様子が描かれており、動画の最後に「その時間が、いつか宝物になる」というキャプションが流れるものである。そこには父親と思われる男性が登場するシーンがほとんどないことから、育児は女性がすべきという性役割固定を潜在的に示すもので、また、ワンオペ育児を推奨するものではないか、ということで批判を浴びた。

 ②のイメージ固定化型のうちの(i)の押しつけ型としては、前述のトヨタ自動車のツイートが挙げられる。これは、女性は車の運転が苦手というイメージを女性に押しつけるものとして批判を浴びた。また、(ii)のイジリ型としては、キリンビバレッジがTwitterに投稿した「#午後ティー女子」のイラストが挙げられる。これは、女性同士は陰口が好きであるとのイメージ固定を前提に、モデル気取り自尊心高め女子、仕切りたがり空回り女子などと名付けられた女性像のイラストが描かれていたものであるが、購入客を小ばかにするものとして、批判を浴びた。

 (2)のステレオタイプ型の②のイメージ固定型の(ii)のイジリ型については、その必要性がないにもかかわらず、購入客を小ばかにした表現をしている点が特徴的である。他方、(ii)イジリ型以外のステレオタイプ型である、性役割固定型およびイメージ固定型の押しつけ型は、性を対象として扱う積極的な意図があるエロ・セクシュアル型と異なり、無意識に性役割やイメージを固定化した表現を行った結果、批判を浴びてしまっている点が特徴的である。

●企業のブランド力向上のため、ジェンダー表現には気を使うべき

Q6 ジェンダー表現として見習うべきものはどんなものか?

A6 炎上した事例を見てきたが、ジェンダー表現として世間から称賛を浴びた事例もある。

 総合結婚情報誌「ゼクシイ」のテレビCMでは、「結婚しなくても幸せになれる時代に、私は、あなたと結婚したいのです。」とのコピーを用い、称賛を浴びた。広告主は、結婚情報誌を商品にしているのにもかかわらず、自らの商品を販売するための前提である結婚について、結婚=幸せと決めつけなかった。パートナーとの関係の形の多様化を前提として、それにもかかわらず結婚したいと表現している点が称賛を浴びている理由であると考えられる。

Q7 ジェンダー表現に気を使う必要性は?

A7 ジェンダーの平等を推進する広告に関しては、日本での調査結果ではないが、全米広告主協会の調査として、信頼度が10%高いとの結果が出ている。このことから、企業のブランド力を高めるためにジェンダー表現に気を使うことが好ましいと言える。さらに、ジェンダー炎上は企業のレピュテーション(評判)を大きく下げることとなり、また、炎上したことがインターネット上に残り続けるため、広告に関するリスクマネンジメントとして、ジェンダー表現に気を使う必要がある。

 また、現在は、インターネットにおいては、技術の発展により、広告主がその商品を訴求したい対象者を狙って広告を表示させられるが、対象者以外の者がその広告を見ることもあり得る。従って、対象者を限定した広告であっても、多様な受け手を意識し、共感を得られるような表現に留意しなければならない。

金井 高志

最終更新:6/24(月) 6:00
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