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萬葉集版・LINEを送りすぎて既読スルーされる女子

6/26(水) 6:05配信

幻冬舎plus

三宅香帆



我が形見見つつしのはせ荒珠(あらたま)の年の緒長く我も思(しの)はむ(巻四・五八七)

(現代語訳)お別れの時に私があげたプレゼント、ちゃんと見返して私のことを思い出してくださいね。私もずっとずっとあなたのことを思っていますわ(はぁと)。

 

……これが長年連れ添った夫婦のあいだで贈られた歌なら「わーラブラブだー」とにっこり微笑みたくなるけれど。結婚しているわけでもない女性から、遠くへ赴任することになった時に贈られた歌だとすると、けっこう「うっ、おそろしい」と背筋を凍らしてしまう、かもしれない。

今回ご紹介するこの歌の作者は、その名も笠女郎(かさのいらつめ)さん。

笠女郎、めちゃくちゃかわいい歌詠むんだけど、その一方で愛が重たく歌も重たく、現代風に言うと「LINEを送りすぎて既読スルーされる女子」なのですわ……。 

 

二十九首送って返事は二首のみ…

大伴家持(おおとものやかもち)、って名前を聞いたことのある方は多いと思うのですが。

家持は、萬葉集の編纂者か?とも言われている歌人。そもそも家が歌人だらけだし、はやいうちからおそらく歌の英才教育を受けたであろう、大歌人。

で、萬葉集には、彼の交際関係がほんとうに「すべてでは!?」ってツッコミたくなるくらい載ってるんですけど。ちなみに前回の池主とのBL和歌も、家持の交際範囲でのお話でしたね……。

しかしそんな大伴家持に歌を二十九首贈ったのが、笠女郎。

二十九首、と聞いて多いのか少ないのか判断しかねるかもしれませんが、いやあ、家持から返ってきた歌が、二首のみ、なんですよ。

二十九首の歌を女性から贈り、男性から返ってきたのが、二首。

おい家持! と言いたくなるか、おいおい笠女郎……と言いたくなるか、それはあなたの人生経験次第なんですけれども。

 

そんなLINE既読スルー系女子(なんて名づけてごめんな)、笠女郎。彼女の歌を見てみると。

 

夕されば 物思ひまさる 見し人の 言(こと)とふ姿 面影にして(巻四・六〇二)

(現代語訳)夕方になると、なんだかぼんやりと好きな人のことを考えちゃう。だって、前に会ったときに、彼が言葉をかけてくれた姿を思い出すから。

 

お、おとめ! と言いたくなる。しかし一見、乙女ちっく全開なこの歌。よくよく考えてみれば「いまは声をかけてくれないあなたが、さらっと声をかけてくれたあの時代を夕方になると思い出しちゃうわ」なんて言ってるわけで、若干の怖さが残るよ。笠女郎、そういうことは男に言うもんじゃないよ、と思わず女子会で説教しちゃいそうな和歌です。女友達からしたら、そこがかわいいんだけども!

 

恋にもぞ 人は死にする 水無瀬川 下ゆ我れ痩す 月に日に異(け)に(巻四・五九八)

(現代語訳)恋の苦しみが原因で人は死ぬことがあるんだよ。ねえ私は、水無瀬川みたいに人知れず痩せていってるんだ、月ごとに、日ごとに……。

 

おっ、重いよ!!! 重いよ笠女郎!!! 彼女からのLINEに書かれてたらちょっと背筋の凍ってしまう歌ではないですか。いやー、「恋にもぞ人は死にする」ってはじまりがいいですよね。恋によって人は死ぬんだよ? と言う女性。おおう。重いけど、笠女郎がどういう人だったのか、ちょっと分かってしまう歌ですね。

 

思ひにし 死にするものに あらませば 千たび我れは 死にかへらまし(巻四・六〇三)

(現代語訳)恋で悩んで人が死ぬものなら、私は千回死んでると思う。

 

こんなの送られてきたら、真顔でLINE……いやちがう、和歌をを見つめてしまうよ。笠女郎の歌は、おそらく一気に贈ったものではなく、少しずつ贈られたものをまとめて萬葉集に掲載したのだろうと言われているのですが。それにしたってこの和歌は、どれくらい仲が良かった時期に贈られた歌なのか、ちょっと気になるところですね。愛情冷めかけの時期でしょうかやっぱり。

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最終更新:6/26(水) 6:05
幻冬舎plus

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