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怪我で二桁、新人王を逃した左腕。ドラ1田嶋大樹「野球、楽しいな」

6/27(木) 11:16配信

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 6月5日、横浜DeNA戦で約1年ぶりに一軍のマウンドに上がった22歳の田嶋大樹は、帽子のつばに手を当てて口元を隠しながら、何かをつぶやいた。

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 その後の試合でも、田嶋はマウンド上でしきりにつぶやく。そのつぶやきのテーマは2つ。「感謝」と「楽しむ」だ。

 「また一軍のマウンドに上がらせてもらっていることに感謝しろよ」

 「楽しまないと損だぞ」

 ことあるごとにそう自分に言い聞かせている。それは怪我をして初めて感じたことだった。

新人王も期待されたプロ1年目。

 昨シーズン、JR東日本からドラフト1位で入団した田嶋は、開幕から先発ローテーションに入った。左腕を鞭のようにしならせて最速153キロのストレートを投げこみ、スライダーなどキレのある変化球も駆使して白星を重ね、6月17日の登板で早くも6勝目を挙げた。このまま行けば二桁勝利、新人王も有力、と期待は膨らんだが、6月24日の登板を最後に、左肘痛のため登録抹消となった。

 電気治療などで回復に努めたが、しばらくは出口の見えない真っ暗闇の状態で、「精神的にかなりしんどかった」と振り返る。そんな時に支えになったのが、トレーナーや、佐野日大高時代の野球部の同級生だった。同級生たちが栃木から大阪まで来て、話を聞いてくれたことは大きな力になった。

 約1年ぶりの白星を手にした横浜DeNA戦、田嶋は何度も「感謝しかない」と口にした。

 その日のヒーローインタビューで、田嶋は「野球を楽しむという基本に戻れた」とも語ったが、「戻った」というよりもむしろ「初めて」に近い感覚だった。

「オレ、野球が好きなんだな」

 田嶋は小学3年生で野球を始めたが、特別野球がやりたかったわけではなかった。両親に何かスポーツをやるよう勧められ、たまたま父がやっていた野球を選んだ。小学生時代は楽しくやっていたが、野球が楽しかったというよりも、仲のいい友達と一緒に過ごすことが楽しいという感覚で、他のスポーツでもよかった。

 そして中学からはずっと「やらなきゃいけない野球をしていた」と田嶋は振り返る。

 「運がよかったのか何なのかわからないんですけど、結果は出ていたんです。だからチームの中でエースナンバーをつけたり、主軸で回っていて、周りに期待されたり、いろんな責任というものがあった。その期待を裏切れないなというのがあって、続けていました。

 『なんか違うな』と、野球をやっていることに対してしっくりきていなくて、辞めたいと思ったことも何度もある。でも辞めるのは、逃げたみたいで、負けた感じがして悔しい。負けず嫌いなんで、『絶対逃げない』と思って、それでズルズルときていました。楽しむということからは遠ざかっていて、もうずっと『今日も野球か』、『今日もやらないといけないな、野球』って感じでした。

 でも昨年、怪我をして野球ができなくなってから、『あれ? なんかオレ、野球したいな』と思い始めた。今年に入ってボールを投げられるようになって、試合にも投げて、段階が上がっていく中で、『野球、楽しいな。オレ、野球が好きなんだな、投げるの好きなんだな、ピッチャー好きなんだな』と気づきました。辞めずにここまできてよかった。プロ2年目で、野球の楽しさに出会えました(笑)」

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最終更新:6/27(木) 12:01
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