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世界最大のマングローブ林は住民を見放したのか

7/4(木) 12:00配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

インドとバングラデシュの沿岸部の島や村が水没。原因は気候変動と違法伐採

 バングラデシュと、隣接するインドの西ベンガル州の一帯は平坦で、ヒマラヤ山脈からの雪解け水を運ぶ川が網の目のように入り組んでいる。サイクロンが頻繁に襲来し、時に数千人規模の犠牲者を出すこともあるが、それでも沿岸部の村や集落には常に頼りにしてきた自然の防波堤があった。インドとバングラデシュの国境をまたいで広がる世界最大のマングローブ林、シュンドルボン(スンダルバンス)だ。

ギャラリー:島が水没。奮闘する住民たち

 面積が1万平方キロを超すこの湿地は、洪水に強いマングローブが密生し、高潮の影響を和らげ、最悪のサイクロンですら寄せつけない。村の住民にとって、このマングローブ林は蜂蜜の一大産地であり、豊かな漁場でもある。

 だが長年、人間と自然から過酷な仕打ちを受けてきた結果、マングローブ林も力が尽きつつあるようだ。違法伐採の横行によって、マングローブ林の縁辺部で木々がまばらになり、水中の塩分濃度の上昇で、「シュンドルボン」の名前の由来となったアオイ科のシュンドリをはじめ、嵐を食い止めてくれる貴重な樹木が数多く枯れている。

 塩水化の原因は陸と海の両方にある。インド領内の河川の上流にいくつもダムが建設されたためにシュンドルボンに流入する淡水の量が減少し、さらに、気候変動による海水面の上昇で、マングローブ林に流れ込む海水が増えたのだ。最悪の場合、今世紀中に海水面が約1.8メートル上昇し、バングラデシュだけで、シュンドルボンのマングローブ林が2000平方キロ以上も縮小するおそれがある。

「今後、シュンドルボン周辺の住民はさまざまな損失を被るでしょう」と、インドのジャダプール大学で准教授を務めるトゥヒン・ゴッシュは語る。ゴッシュによれば、マングローブ林から遠く離れたインドのコルカタやバングラデシュの首都ダッカのような都市ですら、「サイクロンや高潮の被害を受ける可能性が極めて高くなる」という。

シュンドルボンが国を築き、そして滅ぼす

 2018年2月、バングラデシュの東ダンマリ村の西を流れるチュナール川の流れをせき止めていた堤防の一部が、過去1年間で3度目の決壊を起こし、16軒の人家が水没した。その年の乾期のコメの収穫量は激減し、1ヘクタール当たり0.5トンを下回る場所も多く、食料価格が高騰した。多くの農作地では塩害で野菜がさっぱり育たなくなった。

 4月に入ると、数十世帯が故郷に見切りをつけ、首都ダッカへ引っ越していった。世界銀行の推計では、シュンドルボンの周辺住民の大半をはじめ、気候変動による被害が原因で都市へ移住するバングラデシュ人の数は、2050年には1300万人を超えるとみられている。

 災害が相次ぐなか、マングローブが築いたこの土地は気候変動に振り回されることになると考える住民もいる。「この国はシュンドルボンが築きました」とバングラデシュ南西部の東ダンマリ村に住むブル・ハルダルは語る。「ひょっとしたら、この国を滅ぼすのもシュンドルボンかもしれません」。マングローブ林の行方に、国全体の命運がかかっているということだ。

※ナショナル ジオグラフィック7月号「崩れゆく緑の防波堤」では、インドとバングラデシュの沿岸部に広がるマングローブ林が海面上昇と違法伐採によって縮小し、島や村が水没しつつある現状をレポートします。

文=ピーター・シュワルツスタイン/ジャーナリスト

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