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映画『COLD WAR あの歌、2つの心』のこと

7/5(金) 18:00配信

otocoto

僕は音楽が素晴らしい役割を果たしている映画にはどうしても惹かれてしまう。ポーランドの映画『COLD WAR あの歌、2つの心』はまるで音楽がもうひとりの主役と言えるほど素晴らしい貢献をしていた。そして、その音楽はあまりに美しく、エモーショナルだった。

東西冷戦下の1950年代にポーランドで出会った男女がソ連の支配下に置かれたポーランドの状況に翻弄されながら、愛し合い、時にぶつかる模様を描いたこの映画は『イーダ』でアカデミー賞の外国語映画賞を受賞したパヴェウ・パヴリコフスキが監督・脚本を手掛けている。カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞し、アカデミー賞の監督賞、撮影賞、外国語映画賞にノミネートされるなど、高い評価を得た。

物語としては、ポーランドの音楽舞踏学校で出会ったピアニストのヴィクトルと歌手志望のズーラは運命に翻弄されるようにポーランド、パリ、ユーゴスラビアで再会と別れを繰り返すラブストーリー。その物語の秀逸さから、映像の美しさと繊細さまで、隅から隅まで文句のつけようのない素晴らしさなのだが、僕がこの映画で特に惹かれたのは、その2人の心の動きや関係性、その時に彼らがおかれた状況などを限りなく言葉を使わずに説明していることだ。それらの多くは音楽が教えてくれるのがこの映画のすごさだと僕は考えている。

例えば、ポーランド各地で歌われていたフォークソングが瑞々しく、美しく、そして、生き生きとした音楽として表現される一方で、ソ連やポーランド政府が押し付けるように歌わせる政治的な歌はズーラが所属する楽団が高いスキルで完璧に歌い、奏でていても、その音楽からは生命力が失われ、悲しみさえ漂っている。また、西側の音楽でもあるジャズは自由を象徴する音楽として鳴っている。ジャズが鳴るとき、ポーランドの外にいること、もしくはポーランドの外への憧れが強く浮かび上がる。冷戦下において、誰もが感情を表に出さずに指示に従いながらも、表情の下にある感情をミニマムな演技で表現するズーラ役のヨアンナ・クーリグやヴィクトル役のトマシュ・コット。そんなあらゆる場面で彼らの心の中にある感情はまるで音楽が代弁しているようにそっと音により示されていく。

それは2人の関係性に関しても同じだ。その中でカギとなるのが、ヴィクトルが演奏し、ズーラが歌った3つの曲だ。ポーランドのフォークソング「2つの心」という曲と2人のフランス・デビュー曲となるヴィクトルのオリジナル曲でフランス人の詩人が詞をつけた「Loin de toi」。これらの2人の共演曲のジャズ・スタイルによるアレンジが2人の関係性のメタファーになっている。更に細かく言えば、2人が一緒に演奏するシーンでは、シンガーとピアニストの恋模様だけでなく、それぞれの人間性までもが、これらの曲の歌と即興で行われる伴奏のありかたを通して描かれている。

「2つの心」はポーランド語の原曲「Dwa Serduzka」、フランス語による歌詞の直訳「Deux Coeurs」の2パターンがあり、その2種類の詞をズーラが歌い分ける。ヴィクトルを中心とした同じような編成のバンドによる異なるアレンジと演奏で登場する。

例えば、ズーラの歌に対して、ヴィクトルがどんなアレンジをつけ、自身のピアノでどんなハーモニーを乗せながら伴奏をするのかを見ていくと、それぞれが何を示しているかが見えてくる。

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最終更新:7/6(土) 13:50
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