ここから本文です

天ぷらを10年揚げられず…伝統文化の「下積み」は本当に必要? 賛否両論に専門家は

7/9(火) 6:10配信

オトナンサー

 先日、「天ぷら職人の見習いが10年間、師匠の仕事を見るだけで、お客の前で天ぷらを揚げたことがない」という投稿がネット上で話題になりました。この投稿について、「師匠が求める世界観を共有するために必要」「職人の所作や雰囲気は時間をかけて見て覚えるしかない」と肯定的な声がある一方、「何年も下積みをしないと技術を学べないのは非効率」「日本の伝統文化のあしき習慣」といった否定的な声もあります。

 落語などの芸事や、すしなど他の日本料理の世界でも、技術を学ぶまで数年の下積み生活があるようです。こうした下積みには、どのような意味があるのでしょうか。和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

背景に仏教における「修行」?

Q.芸事や日本料理などの伝統文化の世界で、下積みの習慣は何をきっかけに根付いたのですか。

齊木さん「日本の伝統文化に下積みの習慣が根付いたのは、禅宗の僧侶が修行をしたことがきっかけと考えます。時は約2500年前、インドのブッダガヤにあった菩提(ぼだい)樹の下で、釈迦(しゃか)が座禅を組み、悟りを開きました。13世紀、鎌倉時代初期の日本において禅の宗派が生まれ、座禅を含む修行の習慣が根付いていきました。修行こそが精神性を高めるということで、芸事や日本料理においても、人さまに提供するために必要な過程として根付いたと思われます」

Q.雑用などを含めた下積みをさせる目的は何でしょうか。

齊木さん「師匠の姿を見て本人が現場の空気を読み、その仕事や職場が何を目指しているのかを感じ取り、学ぶべきものは何かを見いだすときを待つためです。師匠が求める世界観や目指すべき方向を理解できなければ、技術ばかり伝えても表現に明らかな誤差が生まれます。

本人の意欲と現場の世界観がマッチすれば、人は瞬く間に成長します。今やっていることの先にある世界が手に取るように分かれば、何をどうすればいいか理解できます。本人の学ぶ力を最も合理的に引き出すのが徒弟制度といえます」

Q.それぞれの分野ごとに下積みの期間は異なると思いますが、どれくらいの長さが一般的ですか。

齊木さん「下積み期間はそれぞれの分野で異なりますが、まずは3年ほどの長さといわれています。『石の上にも3年』ということわざがありますが、冷たい石も座り続けていたら温まるように、辛抱していればやがて道が開けるという、忍耐力が大切なことのたとえです。ただし、このことわざが示す3年は比喩表現で、実際には十分な経験を積んだ人から技術を学ぶ時期に入ります。例えば、すし店で修業している人は一般的に3年たってから魚を触れるようになります」

Q.ネット上では、下積みが必要かどうか賛否両論あります。

齊木さん「芸事は伝統からの逸脱を最も嫌い、繰り返し鍛錬を積むことで、昔からのやり方を寸分たがわず再現できることが美徳とされています。そのため、数年単位の下積みは必要だと思います。

宮本武蔵の言葉に『千日の稽古をもって鍛とし、万日の稽古をもって錬とす』というものがあり、これが『鍛錬』の語源といわれています。『鍛』には1000日(約3年)、『錬』には1万日(例えとして30年ほどの長さ)を要するということで、まずは『千日』で精神性を鍛え、『万日』で技術を練ることにより、最上級の芸事を習得できると思います。

文楽の人形遣いは、人形一体を3人で操ります。初めに脚を扱うのに10年、左手を扱うのに10年、最後に頭と右手を扱うのに10年もの歳月を必要とします。それぞれ、十分な下積みを経た3人の操る人形は、微妙な動きはもちろん、心情までも表現し、生身の人間以上に訴えかけるものを持っています。その感動は何とも言い表せないもので、見る者を魅了します。下積みの経験に支えられた日本の伝統文化が成せる技ともいえそうです」

1/2ページ

最終更新:7/9(火) 14:23
オトナンサー

記事提供社からのご案内(外部サイト)

オトナンサー

株式会社メディア・ヴァーグ

「ライフ」「漫画」「エンタメ」の3カテゴリーで、暮らしに話題と気づきをお届け!

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事