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『朝日新聞』広告拒否問題で謝罪 出版社抗議で一転掲載

7/11(木) 12:08配信

週刊金曜日

『朝日新聞』の土曜日朝刊「読書」面の下に出稿が予定されていた新刊広告が、その書籍の内容を理由に掲載を直前に拒否される(後日改めて掲載)事態が発生した。

 死刑囚の手記や「慰安婦」問題など少数者の側に立つ出版活動で知られるインパクト出版会(東京都文京区)より5月23日に発売の『鎮魂歌(レクイエム)』がそれだ。著者の堀慶末氏は2007年に中部地方で発生した強盗殺人・死体遺棄事件(通称「闇サイト事件」)での罪による無期懲役(12年7月に最高裁で刑が確定)受刑者。余罪では一・二審で死刑判決を受けている。現在では贖罪の思いを表明しており、その思いに基づく手記として執筆された今回の作品は17年に「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」主催の表現展に応募のうえ、特別賞を受賞している。ところがその刊行開始を版元のインパクト出版会が5月25日の前記「読書」面下に掲載の広告の中で他の書籍と一緒に行なおうとしたところ、2日前の同23日朝になって突如『鎮魂歌』の書名を他の本に差し替えてほしいとの電話が広告代理店を通じて同社に入った。インパクト出版会代表の深田卓氏によれば、著者が現在は受刑者の立場で「未だ罪を償っていない」ことなどを理由に『朝日』の広告部門の審査を通らなかった、との説明だったとか。

 過去にも死刑囚の手記を刊行し、その広告を『朝日新聞』に掲載した実績があったインパクト出版会は、当然それも示したうえで予定通りの掲載を訴えるも、やはり代理店のN社経由で返ってきた答えは「その時々の判断で決める」。直接交渉すべく『朝日』の広告担当者の名前を尋ねても「ニュースソースは教えられない」との珍回答で拒まれたとか。やむなく同社など主に中小出版社が加盟する一般社団法人日本出版者協議会(出版協)に相談を持ち込んだところ、6月3日に同会の水野久会長(晩成書房代表)名で「朝日新聞社広告部による新刊広告掲載拒否に抗議する」と題した声明が公表された。

【『朝日』側は弁明に終始】

 この声明に対し『朝日新聞』東京本社で紙面の広告を担当するメディアビジネス局と広告審査部はほどなく「掲載見送りに至った判断、経緯を調べ、改めて関係者で協議」した結果として、前記の掲載拒否は不適切であり、広告は「掲載すべきものであった」との結論を表明。6月7日には同社メディアビジネス第一部長の林田一祐氏ほか2名が出版協の水野会長とインパクト出版会をそれぞれ訪問し、報告と謝罪を行なった。担当者により広告掲載不可の判断がされた場合、その妥当性を相互にチェックする仕組みがあるのに今回は「それが十分機能しなかった」との説明だったという。12日にはメディアビジネス局の金山達也局長による文書も送られ、結局『鎮魂歌』の広告は6月22日付「読書」面下に掲載される形で決着となった。

 とはいえ一部の文言の修正要求ならまだしも広告の掲載自体を「そういう本だから」と却下しようとしたことについては「軽く考えないでほしい」と水野氏も伝えたという。『朝日新聞』は今回の件についてはその後に公式見解などは出していないが、出版協やインパクト出版会がこの件に関してネット上で報じている経過説明や見解には異議を唱えない旨を本誌の取材に対して回答した。

 服役中の人物が事件に対する贖罪の思いで書いた本の広告が、結局名前も明かされなかった一担当者の曖昧な判断で抹殺されかけたというのだからひどい話だ。犯罪者の手記公表をめぐっては、他にも1997年の神戸連続児童殺傷事件の加害者男性「元少年A」が15年に上梓した『絶歌』の出版の是非が議論された件などが思い浮かぶが、背景にはこうした過去の事例への議論や検証がメディア業界内できちんと共有されていないこともあるのではないか。今回はその意味でも結果的に掲載拒否が撤回されただけで良しとせず、後への反省材料として活かすべきケースであろう。

(岩本太郎・編集部、2019年6月28日号)

最終更新:7/11(木) 12:11
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