ここから本文です

不便益:現代社会の便利さを問い直す試み

7/11(木) 11:31配信

nippon.com

川上 浩司

人類社会は、ひたすら便利さを追い求めてきた。しかし、不便さにも何か効用があるのではないか。そうしたことを気付かせてくれる研究が進められている。

広がる「不便益」の輪

「不便益」とは、不便の益(benefit of inconvenience)のことだ。便利(convenience)とは、手間がかからず、頭を使わなくても良いことだと仮定すると、不便でかえって良かったことや逆に不便でないと駄目なことがいろいろと見えてくる。不便益とは、やみくもに自動化や効率化を目指すのとはまるで別の方向にある考え方だと言ってもいいだろう。

不便益を研究する私は今春、岩波ジュニア新書から『不便益のススメ』を出した。デジタルネーティブたちに「へー、不便にもいいことがあるんだ。想像もできなかった。いいかも!」と思わせるのが狙いだ。「不便がいいかも」と思わせる動きは、他にもある。日本工業デザイナー協会の関西ブロックが主催する学生デザインコンペでは、2017年度は「不便益なデザイン」、18年度は「不便益×食のデザイン」がテーマだった。同協会の幹部から「不便益をコンペのテーマにしたい」と相談を受けたときは、うれしくもありびっくりもした。しかし話を伺ううちに納得した。デザイナーの皆さんも、単純に便利を追求していればよいという考えに違和感を覚え、「不便だから良い物」のデザインを課題にしたというのだ。

私も含め不便益をテーマとする研究者集団は、日本学術振興会の科学研究費補助金を幸いにも06年度から何度か獲得している。審査員の先生方も不便に益があることを納得されたようで、もともとは税金であったお金を不便益研究に使うことを認めてくれたわけである。なお、こうした研究成果は計測自動制御学会の学会誌に報告されるともに、17年に近代科学社から『不便益:手間をかけるシステムのデザイン』としても出版された。少し横道にそれるが、近代科学社と言えば日本人工知能学会が編集する次期の「人工知能AI事典」の出版を託された出版社である。この事典にも、不便益の一節が入る予定である。

1/3ページ

最終更新:7/11(木) 11:31
nippon.com

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事