ここから本文です

パンチ・ブラザーズのライブが凄かったこと

7/12(金) 8:10配信

otocoto

ブルーグラスというどこか古臭さを感じるジャンルが今、面白い。その最前線にいるのがパンチ・ブラザーズだ。彼らはジャズやクラシックやインディーロックなどあらゆるジャンルから注目されている。待望の来日公演の会場には幅広い世代の観客が集まっていた。

近年、ジャズのリスナーがブルーグラスにも関心を持ち始めている。その原因はパンチ・ブラザーズというバンドの存在に尽きるだろう。

2006年に結成された彼らはリーダーでマンドリン奏者のクリス・シーリ、フィドル奏者のゲイブ・ウィッチャー、バンジョー奏者のノーム・ピケルニー、アコースティックギター奏者のクリス・エルドリッジ、ダブルベース奏者のポール・コワートの5人組。パンチ・ブラザーズのこの編成はブルーグラスにおけるスタンダードなものだ。

元々アイルランドやスコットランドからアメリカに移住した人たちが持ち込んだ音楽がルーツでそこにカントリーやフォーク・リヴァイヴァルなどが入り混じって発展してきた弦楽器のみによるアコースティックの音楽だ。それぞれの楽器がそのテクニックを競うように即興演奏を交えるさまはジャズにも通じるものがある。

とはいえ、ブルーグラスは超絶技巧のバンジョー奏者ベラ・フレックがチック・コリアと共演したりとジャズに接近したり、ベース奏者のエドガー・メイヤーがジャズやクラシックに加えブルーグラスにも取り組んでいたものの特殊な例で、そこには「越境」のような感覚があった。しかし、2010年代に入って、様々なジャンルからその境界を感じさせないようなハイブリッドなサウンドが増えた今、ブルーグラスとジャズが自然にまじりあう光景が目に付くようになった。

クリス・シーリがジャズ・ピアニストのブラッド・メルドーとたびたび共演し、2017年には連名で『Chris Thile & Brad Mehldau』をリリースしたり、クリス・エルドリッジがジャズ・ギタリストのジュリアン・ラージと共演し、二人の連名で2013年に『Close to Picture』、2014年に『Avalon』をリリースしたりと、現在のジャズシーンの最前線で活動するミュージシャンとパンチ・ブラザーズのメンバーの共演が続いているだけでなく、ジュリアン・ラージはもともとブルーグラスにも馴染みがあり、バンジョーを弾いたりもしていたこともあり、その音楽の中にブルーグラスの要素も聴こえてきていて、彼の音楽を聴いていると、そのジャンルの間に境目を感じなくなっている自分がいるのがわかる。

そもそもパンチ・ブラザーズやそのメンバーたちはインディーロックの要素を取り込んでいたり、クラシック音楽やクラシックの音楽家とも積極的に交わっていたり、彼らの音楽自体がブルーグラスだけでは捉えきれないものだ。そこには前述のブラッド・メルドーやジュリアン・ラージをはじめ、サラ・ワトキンス、サラ・ジャロスツ、イーファ・オドノヴァンなど、同じような志向を持つミュージシャンたちが集まり、交流し、新しいアメリカンルーツミュージックのようなものが生まれつつある。

そんなパンチ・ブラザーズが久しぶりに来日をした。会場はブルーノート東京。

会場につくと、ステージにはマイクが1本だけ。そこにはアンプもなければ、エフェクターの類も1つもない。ステージに現れたメンバーたちはアコースティックの弦楽器を手に、その一本のマイクを中央に置いて、5人でそれを囲むようにして演奏する。歌うときは顔をマイクに近づけ、ソロを披露するときは他の4人が一歩だけ後ろに下がり、ソロイストはマイクに楽器を近づけるようにして演奏する。それぞれのメンバーの演奏の音量やマイクからの距離が意図的にコントロールされることでその響きが立体感をもち、同時にマイクとの距離や演奏者の指先のダイナミクスを視覚情報として得た観客にとってはそのダイナミクスの生々しさが増幅される効果もある。目の前で起きていることがほぼ裸のままの音のように鳴らされる感覚はアコースティックのバンドならではの「体験」だ。

1/2ページ

最終更新:7/12(金) 8:10
otocoto

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事