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さいはての大地を進むローカル列車の旅

7/13(土) 18:00配信

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 十数年振りに日本最北端の駅稚内を訪問した。駅は以前訪れたときとは全く違った新しいものとなっていた上に、若干南に移動していた。変わらないのは最北端の駅を示す標柱や看板のみであった。
 往路は旭川発の特急「サロベツ」を利用、復路は稚内発の各駅停車に乗った。特急はともかく各駅停車に乗るというと、何と酔狂な! と驚く人がいるであろう。しかし、早朝6時台の特急を逃すと、次の特急は午後1時台、その間には10時台の各駅停車名寄行きしかないのである。かくも本数が少ない上に、午後の特急に追い抜かれることなく旭川に到着できるのであれば、各駅停車を選ぶという選択肢も必然なのだ。

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 といっても各駅停車を選ぶ利用者は多くない。1両編成のディーゼルカーなので、窓側に座れなかったら悲惨だと思い、早めに改札口に並んだのだが、どう見ても全員余裕で窓側に座れる数の人しか列車を待っていなかった。とはいえ、ステンレス製のキハ54という車両は窓の位置と座席の位置が微妙にずれているので、席によっては車窓を眺めるのに不自由なはずれ席がある。誰よりも早めに並んで、いの一番に車内に入れたのはある意味大正解だった。
 定時に最北端の稚内駅を発車。市街地を走り南稚内駅を出ると、あっという間に人跡未踏の丘陵の中をゆるやかにカーブを繰り返して上って行く。田圃が見られない日本離れした車窓は、道内に住んでいないものにとっては新鮮で、どこかヨーロッパ的である。

 勾配を上り詰めたところで右手に日本海が姿を現す。雲がなく空気が澄んでいれば彼方に利尻島の麗姿が見えるはずなのだが、かすんでいてさっぱり見えない。がっかりだ。

 やがて海岸を離れ内陸に入る。サロベツ原野を進み、ようやく南稚内の次の駅抜海に停車となる。古びた木造駅舎の入口に掲げられた抜海駅と言う味わい深い看板が印象に残る。まわりに何もない駅で、日本最北端の無人駅、最北端の秘境駅として鉄道ファンや観光客に親しまれている。早くも複数の人が降りて行った。地元の人ではなく、私同様、「その筋」の人間である。それが証拠に降りると同時に発車していく列車に向かってシャッターを連写している。こんなところで降りて大丈夫かと思ったが、1時間ほど待てば稚内行の普通列車がやってくるのだ。さすが、列車ダイヤをよく調べている。
 原野を進むと次の駅勇知に停車。かつて貨物列車に連結されていた車掌車の車体を再利用した駅舎だ(「ダルマ駅舎」と呼ぶ鉄道ファンもいる)。車体は年代物だが、きれいに再塗装され清潔感のある状態を保っている。駅前には民家が数軒建っていて、瀟洒な建物も見えた。生活感があるのは好ましいけれど、乗り降りはなかった。

 広々と開けた原野を進む。ときおり牧場の脇をかすめるのが北海道らしい。やがて右手に沼が見えてくると兜沼駅に停車。ホームからも兜沼が見える。沼のほとりにキャンプ場があるけれど、ここでも誰も降りない。訪れるならクルマなのだろう。列車は淋しく発車していく。
 駅毎に窓を開けて駅名標や駅舎の写真を撮っていると、同じような行動を取る人が何人もいる。普通の列車なら怪訝な、あるいは冷やかな視線を感じるものだが、この列車では自然な行為に見える。それだけ鉄分の高い車内なのだが、別の見方をすれば、まともな人の利用は極めて少ないとも言えるだろう。
 列車の最後尾から眺めると、通っている単線の線路はか細く頼りなげに見える。宗谷本線とは言うものの、さいはてのローカル線。JR北海道が自社単独では維持困難と発表した路線のひとつで先行きは不透明だ。

 徳満を経て、特急停車駅の豊富に到着。ここで稚内行きの普通列車とすれ違った。さきほど抜海で降りた人たちは、この列車の到着を待っているのだろう。ホルスタイン牛の帽子をかぶった人のイラスト入り看板が立っていて、ここはおいしい牛乳の産地であることをPRしている。さらに最北端の温泉郷もあると宣伝していた。

 次の下沼も勇知駅と同じく車掌車の車体を利用した駅舎だった。コミカルなイラストが描かれていて楽しげだ。近年になって、きれいに塗り直されたようである。手入れしてくれる人がいるとは嬉しい。
 稚内駅を出発して1時間少々で幌延到着。稚内行きの特急「宗谷」と交換(すれ違う)するので13分停車するという。列車から降りて、ホームのみならず駅前をもちょっとのぞくことができるのは、のんびり停車する各駅停車の旅ならではだ。
 特急停車駅で窓口もある駅なので、JR北海道が独自で企画している「ご当地入場券」を買い求めた。ただし、幌延で扱っているのは幌延駅のものではなく、3つ南に位置する無人駅安牛のものだった。JR北海道の路線が走っている沿線市町村につき、ひとつの駅を割り当てたため、幌延町では、町内にある8つの駅から代表として安牛を選んだためだ。8つの駅のうち、6つが秘境駅ランキングに乗っているとのことで、町は「秘境駅の里ほろのべ」と銘打って観光資源にしている。せっかくなので、安牛駅のほか、マルスの普通の入場券として幌延駅のものも作ってもらった。

 発車時間が近づいてきたので列車に戻ったところ、特急列車が遅れているとのアナウンス。車両不具合のため車両を交換した関係で15分程遅れるようだ。やがて、到着したのは、宗谷本線や函館本線からは引退したはずの旧型車両キハ183系で編成された貴重な列車だった。ただし、宗谷のヘッドマークは付けず、赤で特急と記されただけなのが残念である。
 都合30分程停車した幌延をようやく発車。こうなると、名寄駅での8分の乗り換えは無理なのだろうか? と心配したのだが、車内放送では、名寄到着は定時とのことでホッとした。余裕のある列車ダイヤらしい。野生動物が線路内に立ち入って停車することもあるだろうし、豪雪で徐行することもあろう。様々な状況をよく考えての列車ダイヤなのではないだろうか? 

 上幌延、南幌延と紛らわしい駅に停まり、その次が先ほどご当地入場券でその名を初めて知った安牛駅である。しっかり、この目で見ておこうと到着を今か今かと待ち構えた。
 安牛駅は、いくつかの駅でお馴染となったダルマ駅舎(車掌車の車体利用)だった。ただし、勇知駅、下沼駅のようにペンキを塗りなおしてこぎれいにリニューアルしたものではなく、かなり錆びついて荒れた状態である。朽ち果てる前に何とか手入れして欲しい。ご当地入場券の駅に選ばれ、地元も秘境駅の里として観光用に再利用しているのだから尚更である。

 次の雄信内(おのっぷない)駅は木造駅舎で知られているが、緑のシートで覆われていて改修工事中のようだった。次回通ることがあれば、リニューアルした姿を見てみたい。そして短い板張りのホームに物置小屋が付属したような個性的な糠南駅、こぎれいなダルマ駅舎の問寒別駅を過ぎると列車は幌延町を離れ、さらに南下する。稚内駅を出て2時間近く経ったが、名寄まではまだ2時間以上、旭川までは快速列車に乗り換えて、さらに1時間20分。北海道は本当に広いと感じた。
(つづく)

文/野田 隆

最終更新:7/13(土) 18:00
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