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高島忠夫さん夫妻の「老老介護」が社会に投じた一石

7/14(日) 5:57配信

デイリー新潮

 世の中には2種類の人間が存在する。忍び寄る危機を前に、目を塞(ふさ)いでその不都合な真実を見ないことにする「現実逃避型」と、それを受け止めた上でどうにかそこからの脱出を模索する「現実直視型」である。超高齢化に伴う対策で後手後手に回ってきた現代日本人は、さしずめ前者に属するのかもしれない。だがこの現状に、絵に描いたような、ある幸せな家族の「転落」が一石を投じていた。

 俳優の高島忠夫さん(享年88)の死、それは彼および家族の闘病の凄絶さを思い出させるものだった。高島邸の近隣住民曰く、

「ここ数年は高島さんだけでなく、奥さんも全く外に出てくる姿を見ませんでした。彼女も介護疲れからか、精神的に参っているらしいという話です」

 俳優として、そして司会者としても人気を博していた高島さん。妻は宝塚OGの寿美花代(すみはなよ)さん(87)で、息子の政宏氏(53)と政伸氏(52)も俳優という芸能一家であり、「おしどり夫婦」「幸せ一家」の代名詞的存在だと思われてきた。

 そんな高島ファミリーに不幸の影が忍び寄ってきたのは1998年。高島さんがうつ病を発症したのだ。以後は持病の糖尿病に加え、パーキンソン病、不整脈と、次々に病が彼を襲い、2008年を境に、高島さんが表舞台に出てくることはなくなっていた。

 しかし13年、彼は再び「脚光」を浴びる。ドキュメンタリー「真実の高島ファミリー」が放送され、高島夫妻の老老介護の様子が、実に詳細かつ生々しく紹介されたのである。

「ありのままを世に」

「介護される高島さん、介護する寿美さん、ともに大スターですから、あの番組が世間に与えた衝撃は大きかったと思います」

 こう振り返るのは、女優の小山明子さん(84)だ。彼女自身、夫で映画監督の故・大島渚氏を17年間にわたって介護してきた。

「闘病の様子を見せることに抵抗もあったと思いますけれど、寿美さんは高島さんのありのままを世に伝えようとした。あれだけ幸せいっぱいの家庭でもこういうことが起こるんだなと、多くの方の教訓になったのではないでしょうか」(同)

 確かに同番組のインパクトは強烈で、画面に映し出された高島さんの姿に往年のスターの面影は全くなかった。ボサボサの髪に焦点の定まらない視線。震える手元におぼつかない足元……。それはかつて順風満帆だった家族の、ある意味で「醜い現実」だった。実際、当時は一部から批判を浴びた。その背景には、家庭内の「恥部」を外に見せるのはいかがなものかという“日本人らしい”感覚もあったに違いない。だが、こうした「恥の文化」が、超高齢化による介護問題から目を背けさせる事態を招いてきた面があるのではないか。

「それまで介護にはネガティブなイメージがありました。しかし、高島さんのような影響力のある芸能人がその様子を公開したことは、介護がポジティブに捉えられるひとつのきっかけになったと思います」

 とした上で、介護ジャーナリストの小山朝子氏が解説する。

「とはいえ、介護に関するマイナスイメージが完全に払拭されたわけではありません。実際、世間の目を気にして、介護サービスを提供する事業者の車が自宅の前に駐められることを嫌がり、少し離れたところに停車するよう指示する人もいる。しかし、困った時の頼り先は多いほうがよく、介護をオープンにすることで近所の方の手を借りられるケースもあります」

 高島さんが亡くなったことで、改めて介護議論が活発化する。そうなれば、黄泉(よみ)の高島さんもきっと「イエ~イ!」と親指を突き出すに違いない。

「週刊新潮」2019年7月11日号 掲載

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最終更新:7/14(日) 5:57
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