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十勝と東京を行ったり来たり 『なつぞら』の巧みな場面展開を支える2人の存在

7/15(月) 12:12配信

FRIDAY

週が変わるたびに違うときめきを覚える。『なつぞら』の展開力は実に巧みである。当然のことながら、そのときめきはぶつ切りではなく、存分に余韻を残しながらその先へと襷をつなぐ。幸福も不安も哀しみも、絶妙のタイミングで切り替わる場面転換。そのひとつが夕見子(福地桃子)の登場だ。

千遥(清原果耶)に会えないまま十勝を離れることになったなつ(広瀬すず)。せつなさを引きずり傷心から抜け出せないのかと思いきや、突然、柴田家に帰ってきた夕見子が曇ったなつの心に陽を差した。夕見子は、なつが悩む短編映画の題材にヒントを与えたのだ。壁に貼られた千遥が書いた絵を眺め、なつが手にしていた『ヘンゼルとグレーテル』を、夕見子はなつたち兄妹そのものだと言ったのだ。

「不思議だねぇ。(千遥ちゃんは)お父さんの手紙を知らないのに、同じことをしてたということだべ」

それは昔、兄の咲太郎(岡田将生)が父の真似をして書いた家族の絵にそっくりな、咲太郎となつの絵だった。

「あんたが絵描きになるのは必然だったんだね。あんたら兄妹にとっては、ヘンゼルが森で落とすパンが、絵なんだわ。パンを落とすかわりに絵を描いてんの。それが自分の家に帰るための道しるべなんだわ」

小さい頃からなつとは生き方が違う夕見子。趣味も性格も表現方法も違うが、なつの心に穴が空いたときにはすぐさま埋めてくれる。そっとでも、まわりくどくでもなく、夕見子らしくストレートに意志を伝えながら。夕見子の助言によりなつは、心を決めて「一生会わない」と手紙に書いた千遥と、絵を書くことで繋がれることを確信したのだろう。夕見子のおかげで重い空気を振り払い東京へ戻ることができたのである。

短編映画の題材はヘンゼルとグレーテルに決定し、東洋動画のアニメーションチームには新人が参加した。抜群の画力の新人、神地航也(染谷将太)だ。ひとクセもふたクセもある神地だが、その発言は理論的で、アイデアの扉をこじ開ける。

麻子(貫地谷しほり)はその柔軟な発想と斬新な切り口にしばし呆然、なつは心を動かされてワクワクが止まらない。セオリーを逸した進め方で麻子を困惑させていた演出助手坂場(中川大志)も噛み合うようになり、映画づくりは急ピッチで進行する。ただなつは、麻子の本心が知りたくて、自分の提案した企画を、麻子が納得しないならやめると言った。

「あなたってズルいわ。そうやっていつでも一途に自分の情熱だけを貫こうとするんだから」

そう言いながら、それがなつの個性であり魅力だと麻子は言った。それがアニメーターにとって大切な要素であることも。

「私のことなんか気にしないで、作品のことだけ考えればいいのよ」

夕見子同様、自分らしい物言いでなつに心を伝える麻子。“遠慮”という邪魔を省き、最短距離で心を通わせようとする麻子には、なつへの、憧れにも似た信頼感が芽生えたのだろう。数日後、物語のあらすじができあがると、麻子は今までにはない素直な思いを口にする。

「面白いわよ、これ。やっとやりたいことが見えてきた気がする」

雨が降り、地面が固まっていくようなチームワーク。完成にはまだ遠い作品は、きっと年老いた頑固な開拓者や十勝の家族、波乱の運命を余儀なくされた妹の心にも何かを届けることだろう。まるでヘンゼルが落としたパンのように。それがアニメーションの力だと、今さらながら我々も気づかされるのかもしれない。

そして今週のタイトルは『なつよ、恋の季節が来た』。なつと坂場の急接近は予想を裏切らないだろうが、またしても夕見子がやってくれそうだ。今回はいささかトラブルメーカー? 泰樹(草刈正雄)の左フックは誰に炸裂するのか。しかもリングは東京である。15分がどんどん短く感じてきた。

文:栗山圭介
1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。他の著書に『国士舘物語』、『フリーランスぶるーす』

最終更新:7/15(月) 14:16
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