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冨安健洋、ボローニャ移籍の真相とは? 二人の目利きによる評価とクラブ事情から分かる期待値

7/17(水) 10:11配信

フットボールチャンネル

 日本代表DF冨安健洋は今夏、ベルギーのシント=トロイデンからイタリアのボローニャに移籍した。ボローニャは冨安をどのように評価しているのか。この移籍取引には確かな実績を持つ二人の目利きが絡んでいた。(取材・文:神尾光臣【イタリア】)

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●戦力として期待し、投資している

 欧州全土で猛暑に見舞われた6月28日、冨安健洋はボローニャにいた。

 ボローニャ市郊外のカステルデーボレにある練習場に、冨安が関係者とともに姿を見せたのは昼の12時くらいのこと。5面のグラウンドを抱える敷地内にはトップチーム用のクラブハウスの他に下部組織用の施設もあり、クラブのオフィス、さらにはメディカルセンターまで併設されている。

 冨安は時折、クラブ関係者の運転する車に同乗して施設内を見学。その際にメディカルチェックも済ませたと報じられている。午後にはクラウディオ・フェヌッチCEOにチームマネージャーを務めるマルコ・ディ・バーイオ氏も到着。新しい選手の獲得の一報を入れようと、ローカルメディアの取材陣も何人か訪れて正門前に張っていた。彼らはみっちりと会談を持ち、最終的に冨安らがカステルデーボレを後にしたのは夕方の7時半を回った頃だった。

 もうその頃には、ボローニャと冨安の前所属先であるシント=トロイデンはクラブ間合意に達していたという。あとは冨安本人がオファーを持ち帰って再考するが、10日に受諾をした。

 クラブは’90年代のビデオゲーム風の歓迎クリップを作成し、公式のアカウントに掲載する。すると「クラブがツイッターアカウントを開設してから記録的な勢いで(ガゼッタ・デッロ・スポルト)」たちまちのうちにライクが付いた。

 シント=トロイデンには移籍金700万ユーロ(約8億5000万円)に成功ボーナスをしっかり払い、冨安自身とは5年契約を結ぶ。戦力として期待し、投資していることの現れである。このオペレーションは、イタリアのサッカー界で確かな実績を持つ二人の“目利き”によってなされた。

●二人の目利きは冨安をどう見るのか?

 まずは、スポーツ・ディレクターのリッカルド・ビゴン。若くしてレッジーナでチームマネージャーやGMを務め、ナポリではSDとして数々の選手を呼び寄せた。

 とりわけサンテティエンヌにいたファウジ・グラムと、KRCヘンクにいたカリドゥ・クリバリは「自分が発見し連れてきた」と自負している。「ただ強い選手を連れてくるだけでは不十分で、実力が開花するための適応力と環境が用意されることが必要だ」というポリシーを持っており、綿密にスカウティングを行う人物であると知られている。

 冨安について先行してチェックしていたのはビゴンだが、その彼の選択にもう一人の重鎮がお墨付きを与えた。6月から就任したワルテル・サバティーニは、人材発掘の名人として欧州にその名を轟かせる敏腕マネージャーである。

 ラツィオの下部組織であのアレッサンドロ・ネスタを見出したのち、ペルージャやパレルモやローマで様々なタレントを発掘。南米から、また北欧から無名の若手を連れてきて、最終的には大型の移籍金を取り付けるまでに育てられる優秀な人物だ。

 現在64歳、近年は第一線ではなく強化戦略を監修する立場として働くことを欲していたが、そこにボローニャが目をつける。同じ資本グループであるMLSのモントリオール・インパクトの両方の戦力補強を監修する立場として、冨安の獲得にゴーサインを出したということだ。

 6月中旬、サバティーニが就任の記者会見に応じていた際、「(チリvs日本戦の失点で)マークをしていたのは“我われ”の日本人だったのか?」と口走ってしまった一節があった。

 重要なのはそのあとで、彼は「あれはミスをしないからね」とプレイに触れた一言も発言していたのだ。実際のところサバティーニは正式就任の少し前からクラブと話し合っていたようだが、いずれにせよきちんとスカウティングをしていたことが分かる。

●ボローニャはどのようなクラブなのか?

 そんな冨安だが、ボローニャが獲得に乗り出したことと、そのボローニャにはチリ代表のエリック・プルガルが所属していたため、コパ・アメリカのプレーぶりはメディアもチェック。概ね「興味深い選手だ」という評価を得ている。

 昨冬にはラツィオやウディネーゼなどが調査に乗り出したというニュースも流れたが、イタリアの多くのサッカーファンにとってはまだまだ知られざる存在である。ここから、どういうインパクトをもたらしていくのか注目したい。

 さて、彼が加入する現在のボローニャとはどんなチームなのだろうか。

 スクデット獲得7回の古豪。ただ強かったのはカルチョの黎明期の話で、セリエAとBの間をいったりきたりするエスカレーター的な存在としてずっと定着していた。2004年冬からの半年間、中田英寿がプレーしていたことを記憶されている方も多いことだろう。

 ただ近年は、上のレベルに挑もうとし始めている。2014年に北米資本がチームを買収し、2015年からはカナダの乳製品王手サプート社を興した投資家ジョーイ・サプート氏が単独でオーナーとなる。

 するとまず練習場に手を入れて最新の設備とし、環境からクラブを整備する。2018/19シーズンは降格圏に陥りそうになるが、シニシャ・ミハイロビッチ監督を招聘した上で全ポジションに補強を実施。その結果残留はもとより、10位に食い込むという大健闘を見せた。

 今シーズンはその路線を継続した上で「学ぶ期間は終わった。今後は常に順位表の左側にいるようにしたい(サプート会長)」と中位以上の定着を目標に掲げた。

 レンタルで呼び寄せていた選手たちは、ことごとく買い取りオプションを行使し残留させる。そして新規獲得選手は、もっぱら成長の見込まれる若手に集中。ビゴンSDは「意欲に満ち、真面目に取り組んでくれる」という理由で、もっぱらベルギー以北の選手たちを中心に選手獲得へ臨んだ。

 もちろん、ミハイロビッチ監督も続投だ。先日には白血病を公表したが、変わらず指揮官ではあり続ける。

「2、3%程度(治療による離脱で)貢献が減るくらいであれば、他の監督を呼ぶより彼に任せた方がずっと良いと思っている」と、サバティーニは残留を明言した。プレシーズンにはスタッフが総出で彼の代行をすることになり、選手の指導方針に大きな変化はなさそうである。

●右サイドバックでの起用の可能性も…?

 基本のシステムは4-2-3-1。厳格なゾーンとラインディフェンスを敷くミハイロビッチ監督は、「12年間で3-5-2をやったのは1度しかない」というほど4バックを好む。

 戦術面でのアップデートにも余念がなく、DFラインからの組み立てを重要視している。足元の技術が高く、動きながらのインターセプトに強みを見せる冨安は、守備のメカニズムに合っていそうである。

 そのセンターバックの一角は、おそらくベテランのダニーロ。昨季はここに若手のセルビア系ブラジル人のリャンコがいたが、パスを有していたトリノが放出を断った。冨安はここのポジション奪取に挑むことになる。

 ライバルはキエーボから移籍し、イタリアの現実をよく知っているマッティア・バーニや、ジュビラー・プロ・リーグで昨季ナンバーワンDFの呼び声も得ていたステファノ・デンスビルなどだ。35歳のダニーロは2020年6月までの契約。最終的には今シーズンで冨安らに切り替えていく、という希望をクラブは持っているのだろう。

 だが補強された選手たちと、現有戦力を見ていると、興味深い点が浮かび上がる。CBには人がだぶついているといった状態になった一方、サイドバックの層が薄めなのだ。

 新戦力のCBのうち、誰か一人をサイドバックにコンバートさせる可能性は十分考えられる。左SBのミッチェル・ダイクスが攻撃的なので、右サイドバックは引き気味でバランスをとらせていた。ワイドに開いてボールを受けたのち、縦にパスを出してウイングを走らせていくという役割も課していた。

 つまり足元の技術が確かな冨安を、右SBとして使う可能性もあるかもしれない。

 守備重視のイタリアでは、組織的な守備にも対人の駆け引きにも守備の指導理論が確立している。その環境の中で冨安がどういう成長を遂げるのか、興味は尽きない。

(取材・文:神尾光臣【イタリア】)

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最終更新:7/17(水) 10:26
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