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マリノス遠藤渓太、「点を取れないよね」からの脱却。代表落選の悔しさ、今季初ゴールにこめられた万感の思い

7/17(水) 11:03配信

フットボールチャンネル

明治安田生命J1リーグ第19節、横浜F・マリノス対浦和レッズが13日に行われ、ホームの横浜FMが3-1で勝利した。この試合に先発した遠藤渓太は38分、自身の今季公式戦初得点となる先制点を奪った。東京五輪世代としてこれまで年代別日本代表に名を連ねながら、先日のトゥーロン国際大会、コパ・アメリカ2019(南米選手権)では落選という悔しさを味わったアタッカーが漏らした思いとは。(取材・文:藤江直人)

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●ノーゴールは「情けなかったし、苦しかった」

 いろいろな声が耳に届いてきた。たとえば横浜F・マリノスのチームメイトたちは、下部組織から昇格して4年目になる東京五輪世代のホープ、21歳の遠藤渓太にこんな言葉をかけ続けた。

「いつゴールを決めるの」

 褒められた直後に物足りなさを指摘する声が、左ウイングで先発フル出場を積み重ね、プレー時間が増えていくにしたがって、ファン・サポーターの間で強まっていることもひしひしと感じていた。

「遠藤っていいけど、でも点を取れないよね」

 図星だった。数字を見れば、言い返すことができなかった。いつしか相手ゴール前でシュートチャンスを迎えるたびに、同じフレーズが自分の心のなかで繰り返されるようになった。

「力むな。力んだらダメだ」

 頭では理解していても、ボールをインパクトする刹那になると無意識のうちに力が入ってしまう。ゆえにシュートがゴールの枠をとらえられない。あるいは、相手キーパーの守備範囲へ飛んでしまう。そのたびに天を仰ぎ続けた胸中を、遠藤は神妙な表情を浮かべながら振り返っている。

「ここまで試合に出ながらノーゴールというのはすごく情けなかったし、苦しかった。それでも全部が全部、人生が思い通りにいくわけがないと思ったこともあります。いろいろな葛藤を抱えながらプレーしていたというか、正直、難しい時期をすごしてきました」

●チームメイトやファンの期待は伝わっていた

 今季の遠藤は北海道コンサドーレ札幌戦を除くすべてのJ1リーグ戦、YBCルヴァンカップのグループリーグ6試合、そして立命館大学(京都府代表)を2-1で振り切った天皇杯全日本サッカー選手権2回戦で、アンジェ・ポステコグルー監督からチャンスを与えられてきた。

 しかし、ホームの日産スタジアムで浦和レッズと対峙した、13日の明治安田生命J1リーグ第19節がキックオフを迎えた時点で、公式戦で一度もゴールネットを揺らしていなかった。それでもリーグ戦においては、マリノスの総得点が最多を数えていた事実が歯がゆく感じられた。

 ともに今季から加入したブラジル人コンビ、エジカル・ジュニオとマルコス・ジュニオール、昨季にJ1初ゴールを含めた9得点をあげるなど、大ブレークを遂げた仲川輝人のトリオが叩きだしたゴール数は、レッズ戦を迎えた時点で実に「24」に達していた。

「本当に3人を頼って、3人に助けられながらここまでリーグ戦を戦ってきました。でも、そんな(自分がノーゴールという)状況でもチームメイトのみんなは自分を信頼してくれたし、ファン・サポーターのみなさんもすごく応援してくれているのが伝わってきたので」

 チームメイトたちからかけられ続けた「いつゴールを決めるの」を、ファン・サポーターの間で広まっていった「遠藤っていいけど、でも点を取れないよね」を、自分に対する期待やエールの裏返しと受け止めてきた。そして、レッズ戦の38分に呪縛から解放される瞬間が訪れた。

●力みのない動きから放たれた初ゴール

 自陣の中央で横パスを受けたレッズの右ウイングバック・橋岡大樹が前を向き、ボールを前へ運ぼうとした直後だった。対面に立ちはだかったマリノスの左サイドバック・ティーラトンのプレッシャーに臆したのか。橋岡は勝手にバランスを崩して、ボールを失ってしまう。

 すかさずボールを拾ったティーラトンが橋岡を置き去りにして、斜め右前方へいた遠藤の足元へ正確無比なパスを通す。相手ゴールに背を向けた状態で、左足でパスをトラップした遠藤は体を時計と逆回りにターンさせながら、ボールを利き足とは逆の左足の近くに置いた。

 混乱をきたしていたレッズの守備陣のなかで、3バックの中央を務めるマウリシオが必死に間合いを詰めてきた。左足の近くにボールを置けば、自身の体の横幅分だけマウリシオと距離を作ることができる。すべては計算された動きだったのか、と問われた遠藤はゆっくりと首を縦に振った。

「ブンちゃん(ティーラトン)からいいボールが来て、珍しくというか、すごくいいところにボールを置くことができた。ああいうシュートを打っていた時期もあったし、しっかり打ち切っているシーンもあった。それが今日はようやく入ってくれたことで、いい時間帯で自分が先制点を取れてチームが勝てたことは嬉しいし、これで3人の負担も減ってくれるかなと思っています」

 ターンを含めた力みのないスムーズな動きから、左足をコンパクトかつ思い切り振り抜く。ミートの瞬間だけ力を込める、理想的なスイングから放たれた強烈な弾道はブロックしようと飛び込んできたマウリシオの股間を抜けて、ゴールの右隅を正確無比に撃ち抜いた。

 今季のリーグ戦で18試合目、時間にして1113分目にようやく決まった、誰よりも遠藤自身が待ち焦がれてきた初ゴール。この間、左ウイングを主戦場として、縦へ飛び出す突出したスピードと高度なテクニックを融合させながら台頭してきたホープは、予期せぬ試練も味わわされている。

●トゥーロン、コパ・アメリカはともに落選

 来夏の東京五輪に臨む男子代表チームには、森保一監督のもとで立ち上げられた2017年12月から「常連」として名前を連ねてきた。昨年1月のAFC・U-23アジア選手権、同3月の南米パラグアイ遠征、同5月のトゥーロン国際大会、そして準優勝した同8月のアジア競技大会を戦ってきた。

 今年に入っても3月のAFC・U-23アジア選手権予選に招集された。しかし、5月のトゥーロン国際大会は選外となった。フル代表を含めた国際大会が重複した関係で、東京五輪世代のなかでも各ポジションで2番手以降の選手が名前を連ねた、という事情もはたらいていた。

 しかし、東京五輪世代が18人を数えるチーム編成となった、コパ・アメリカ2019に臨んだフル代表にも遠藤の名前はなかった。各チームから一人ずつ、という原則が貫かれたと思われるなかで、マリノスからは同じ1997年生まれのMF三好康児が選出されていたことも関係したかもしれない。

 遠藤自身も「いろいろな経緯があると思うけど…」と、努めて自分自身を納得させてきた。しかし、トゥーロン国際大会で史上初の決勝進出を果たし、コパ・アメリカでは決勝トーナメント進出への扉を開けかけた同世代の盟友たちを応援する、自分自身の存在には違和感を禁じえなかった。

「トゥーロンとコパ・アメリカで頑張っているみんなを見るのが悔しかったというか、自分が両方(の代表)に入っていないというのもなかなか難しかった。自分はマリノスで頑張るしかないと思ってプレーしても上手くいかず、ゴールも決められずに厳しい時間もあった」

 抱き続けてきた、偽らざる本音を遠藤は打ち明けた。それでも、マリノスで先発として出場し続けているということは、歩んでいる道が正しいからだと言い聞かせた。いま現在はあくまでも通過点。最初に訪れる勝負のときが、来夏の東京五輪に臨む18人の代表メンバー入りとなる。

「だからオリンピックへ向けて、トゥーロンやコパ・アメリカがすべてじゃない。自分のチームで何ができるのかが、最終的にはオリンピックにつながる。見てくれている人は、見てくれていると思うので」

●キャプテンが語る遠藤の存在感

 誓いを新たに立てた直後だったからこそ、自身のストロングポイントが凝縮された初ゴールに全身を痺れさせた。チームメイトたちの手洗い祝福を受けるなかで、いままでとはちょっと異なるニュアンスの声をかけられ続けた。「やっと取ったね」という響きに、万感の思いを募らせた。

「やっぱりみんなが心待ちにしてくれていたと思うし、実際にひしひしと感じていた。チームメイトがすごく支えてくれたし、僕自身、何も言われないよりは、何かを言われた方が絶対によかった。やっと応えられたという喜びがありました」

 冒頭で記した「いつゴールを決めるの」をポジティブに受け止めてきた理由を、遠藤ははにかみながらこう明かした。なかでも扇原貴宏とともにキャプテンを務める、ボランチの喜田拓也の一挙手一投足が遠藤を励ました。今季のマリノスにおける遠藤の存在感を、喜田もこう位置づける。

「ゴールこそ決めていなかったけど、渓太の働きというものを僕たちはわかっていましたからね。アシストもそうですし、渓太の走りで取れた点もある。ゴールはなくてもチームへの貢献やハードワーク、味方へのスペースを空ける走りとか、見えづらいものもあるので何も言うことはなかった。それらが報われ、素晴らしいゴールが入ったことでさらに思い切りが増せばいいし、僕たちとしては渓太を上手くサポートしていければ、と思っています」

●議論を呼んだゴール

 だからといって、遠藤が満足することはない。たとえば1点リードで迎えた59分。エジカル・ジュニオとのワンツーで左サイドを抜け出した遠藤がスピードに乗ったまま、右足でファーサイドを狙ったシュートを放った。枠をとらえるかどうかの、ギリギリのシュートは予期せぬ展開を招いている。

 レッズの左ウイングバック・宇賀神友弥ともつれ合いながら、仲川が胸のあたりで押し込んだ一撃は一度ゴールとして認められ、レッズの選手たちの猛抗議を受けてオフサイドで取り消しとなり、最終的には正式に仲川のゴールとなった。

「自分のよさが出たシーンだったけど、最後に僕がしっかりと決め切っていたら、あんなことにはならなかった」

 松尾一主審の判定が二転三転し、中断時間が9分間にも及んだ異例の試合展開を神妙に受け止めながら、遠藤は残り15試合となったリーグ戦への思いを新たにする。暫定ながらマリノスは勝ち点36の2位をキープし、首位・FC東京とのポイント差を「3」に縮めている。

 そして、マリノスの総得点「33」は依然としてリーグ1位であり、得点ランキングでトップタイの10ゴールをあげているエジカル・ジュニオ、8ゴールで並ぶ仲川とマルコス・ジュニオール、そして待望の初ゴールを決めた遠藤と前線の4人で約82%にあたる「27」をあげている。

「もちろん1点で終わるわけにはいかないし、ここから先の自分の振る舞いやプレーがすごく大事になってくる。僕が点を取れるようになれば3人へのマークも分散するし、負担も少なくなる。僕の誇りにかけて数字を積みあげて、もっともっと上のステージに行くことが、自分たちが優勝へ向かっていくうえですごく大事なことだと思っています」

 喜田をはじめとするチームメイトたちへの感謝の思いを成長する力に変え、ファン・サポーターから「遠藤っていいね。点も取れるし」と言われるようになれば――2004シーズン以来、実に15年ぶりとなるマリノスのJ1制覇と、遠藤自身が日の丸を再び背負う姿が見えてくる。

(取材・文:藤江直人)

【了】

最終更新:7/17(水) 11:04
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