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マリノスを支える影のスペシャリスト達 ゲーム分析とメディカルの現場から

7/18(木) 12:23配信

footballista

監督のイメージに近い映像を作れるか

――ハーフタイムの映像はどのような流れで見せているのですか。

 「ベンチ内ではなく(スタジアムの)上で撮影しているので、前半40分くらいにはロッカールームへの移動をはじめます。最後の5分は仕方ないですね、前半で5~6シーンを選んで、1分40秒から2分ぐらいの映像にまとめます。その作業にだいたい3~4分かかります。監督が気になっているだろうというシーンをピックアップします。その間に監督と選手が戻ってきてすぐその映像を監督とヘッドコーチがチェックします。やり始めた頃は「あのシーンないの?」「このシーンはいらないよ」などありましたが、今はもうほとんど直さないですね。映像を確認してもらっている間に選手たちが、着替えたりしていて、それが落ち着いたら、全選手座って映像を見せるという流れですね」

――今は監督が考えていることと齟齬がほとんどないんですね。

 「私はそう思っていますが、監督がどう思っているかはわかりません(笑)。ただ、監督のゲームモデルは変わらないので、うまくいっているシーン、うまくいってないシーンについて、監督がこういうことを言うだろうなというのはわかりますね。監督のサッカーをしっかり理解して進めるというのは自分の特徴でもあると思っています」

――分析官で大事なのは監督のサッカーを理解するということなんですね。

 「それがいちばん重要なことかもしれません。監督が何をしたいのか、どのように修正したいのかが大事ですね。映像だけ撮って編集しても「これじゃないよ!」って言われてしまっては意味がないので」

――アンジェ・ポステコグルー監督のサッカーは特殊ですから理解するのは大変だったのではないですか。

 「オーストラリア代表のときから監督と一緒にやっているヘッドコーチのピーター(・クラモフスキー)からは『杉(崎)の理解力は今まででも断トツに早い』と言われました。プレーの一つ一つを確認しながら映像を作るというようなことはできないので、監督から「こういうポジショニングでこういうサッカーをやりたい」という説明を受けて、その説明からいかに監督のイメージに近い映像を作れるか。それが分析官やテクニカルスタッフのやりがいではないでしょうか」

――ヴィッセル神戸、ベガルタ仙台と渡り歩いてきた杉崎さんにとって、ポステコグルー監督のサッカーの個性はどんなところにあると思いますか。

 「根底にあるのは『点をたくさん取りたい』というところで、そこから逆算する形で全てが始まっているなと。相手を圧倒するということを考えているのは、今まで一緒にやってきた監督とは違うなと感じます。監督は、昨年は4バックから3バックにしたり、今年も2ボランチから1ボランチにしたりなど、一つのシステムに固執するわけでなく選手を活かすためにフレキシブルに対応していると思います」

――ポステコグルー監督になってからのマリノスは得点が本当に増えていますが、それはやはりゴールから逆算しているということが大きいのでしょうか。

 「監督は『パスをここに出すから、相手がこうなります。そうしたら次はこうなります』そういうロジックがゴールまで緻密につながっています。だから『ここにいなさい、ここにパスを出しなさい』というのがはっきりしています。逆に選手がその指示を守らなくて、ゴールにならなかった場合は『なんでやることをやらないで、ゴールにもなってないの?』ということになります。自分で決断するのは良いけど、やるならゴールを取れと。やることやって得点にならなかったらそれは監督・コーチの責任ですと。最近は選手たちから試合直後に『あのシーンはシュートじゃなくてパスでしたよね?これきっとミーティングで言われますよね』ということがあります。選手たちがチームの約束事はわかっていて、あえてシュートが入ると思って決断したのならそれはそれで選手たちの戦術理解の浸透度があがっているということですから私は大きな問題とは思いません。戦術的な反省が出てくること自体、いい方向に向かっているなと感じます」

――今年はセレッソ戦で相手に分析されて0-3で負けました。そういう敗戦が起きた後ににやり方を変えようとはならないのでしょうか。

 「基本的なことは変えません。恐らくメディアや記者の方々が言うのは『なぜ相手が対策をしてきているのに、同じことをやっているのですか?』ということだと思いますが、ポステコグルー監督が変えるつもりがないと答えるのは、『コンセプトを変えるつもりがない』ということですね。それを変えるとチームの軸がブレますから。そこは一貫していますよね」

――コンセプトを変えないということは、一方でそこは狙われやすいポイントになりますよね。

 「それはどのチームにもあてはまることです。監督は『1試合を勝つためにやっているのではなく、リーグ戦を優勝するためにやっている。対策されたからといってコンセプトを変えていたら優勝は絶対ない。世界を見ても1試合ごとにシステム、選手、コンセプトをコロコロ変えているところは優勝していない。コンセプトに対して対策されても、それを突破できるチームが優勝する』と常々言っています。その考え方は選手にも浸透してきているように感じます」

――とはいえセレッソ戦の負け方はショッキングだったんじゃないですか。

 「負けたときは色んな要素がありますから、特別セレッソ大阪戦がショッキングだったという印象はありません。セレッソ大阪戦は暑さがあり、(試合会場へは)札幌からの移動で、3日間ホテル生活だったという背景もあります。プレー分析だけでなく、フィジカル、メンタル、色んな要素が重なってのあのパフォーマンスだったと捉えています。次の試合で同じことが起きてしまったらマズいとは思っていましたが、次戦は勝つことができました。勝負事なので当然負けることもあるわけですが、分析によってその可能性を少しでも減らそうと取組んでいます。例えばコンサドーレ札幌戦は相手が4バックで来るかもしれないという予測は事前に選手たちに伝えていました。結果的にはその試合で負けてはしまいましたが、“相手の対策に対する対策”を立てることができていたので敗戦を大きく悲観することはありませんでした」

――札幌の4バックを読んでいたのはすごいですね。どのように相手の対策を立てているのでしょうか。

 「色々な情報網を駆使し、対戦相手監督の戦い方の癖みたいなもの……相手によってフォーメーションを変えるとか、古巣の選手をあえて起用するとか。そういうことを織り込んで対策を立てます。長いスパンで相手監督を分析すればどういう相手、どのような状況で変えるのかというのが見えてきます。逆に頑固でなかなか変えない監督もいます。対戦相手の番記者が書いている記事を参考にすることもあります」

――そういう情報収集もしっかりされているんですね。逆に分析には情報収集が欠かせないということですね。

 「それは間違いないですね。情報収集ができない人は分析ができないと思います。」

――改めてCFGグループのメリットを教えてください

 「CFGとのパートナーシップがなければ、この映像編集ソフトには辿り着けなかったと思います。金額的に手が出せないクラブも多いと思うので、そういうツールを使わせてもらえることは大きいですよね。毎年、年度末にJリーグ各クラブの分析担当の会合があるのですが、プレミアリーグの事例や、映像の加工方法など名指しで意見を求められることもありますし、マリノスはトップにいるのだなと感じます。そういう意味では日本サッカー界の映像分析はもっと底上げしていく必要があるなとも思います。映像を作って終わりではなく、そこに戦術の理解があるか。ツールは使いこなせて当然で、その上でサッカーの中身の話を監督やコーチと話せるか。両方の能力を発揮できなければ効果的な分析はできません」

――分析の世界も本当に進んできているんですね。

 「5年前はそんなに重要じゃないと言われていたポジションです。分析に1人雇って給料払うぐらいならコーチをひとり雇ったほうがいいとか、コーチが分担してやればいいとか。でも、ドイツがワールドカップで優勝した時にデータ分析が注目されました。そこから一気に分析の世界も進んだんですよね。プレミアリーグはCLもELも決勝がイングランド対決となったことで、『インスタット』というスカウティングシステムが注目されたり、プレミアリーグの全クラブが入れている試合分析ソフト『スポーツコード』が注目されたりしています。必要性の理解と比例して普及が進みますね」

――今後の分析の世界についてはどう思われていますか。

 「マリノスではアナリストが私1人ですが、マンチェスター・シティは5人います。シティからは『分析を1人で担当するなんて!』と驚かれました(笑)。むこうの場合は、対戦相手分析、自チーム分析、フィジカル分析、パフォーマンス分析と細分化されていますから。だから、『一体どうやって1人でこなしているんだ?』って。『いや、そんなの1人で出来る訳ない』と答えましたけど(笑)。リソースが根本的に違いますよね。でも、CFGのなかにいると、この大きな差が視覚化出来て、かつ世界と伍していくために必要なツールや方法がふんだんに揃っているので、貪欲にキャッチアップしていきたいですね」


Ken SUGISAKI
杉崎 健
横浜F・マリノス ビデオアナリスト。日本大学卒業後、データスタジアム株式会社に入社。サッカーのデータ分析やソフトウェア開発に携わる。同時に、Jリーグ各クラブへの分析ソフトウェアの販売や、データ分析のサポート、東大ア式蹴球部分析チームの立ち上げに寄与したのち、2014年にヴィッセル神戸の分析担当としてクラブ入り。2016年にはベガルタ仙台の分析コーチに就任。2017年より横浜F・マリノスのテクニカルスタッフに就任し、現在はビデオアナリストとして活躍。

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最終更新:7/18(木) 12:52
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