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マリノスを支える影のスペシャリスト達 ゲーム分析とメディカルの現場から

7/18(木) 12:23配信

footballista

ドクター・イアンとの出会い -日暮清氏インタビュー-

――CFGとの提携をきっかけに導入したソフトがあると聞きました。

 「はい。選手の出身地、身長、体重という基礎データだけでなく、怪我のデータ、GPSで計測した走行距離、ウェルネスデータ、選手の睡眠時間、選手の疲労具合などが記録できるソフトを使っています。選手には毎朝スマホアプリでデータを入力してもらっています。フィジカルコーチやフィットネスコーチはそれを見て『この選手は何時間しか寝れていないね』と分かります。また、各トレーナーの治療日報、リハビリレポート、薬の管理、怪我中の選手であれば怪我して何日目かなど、どのような状態にいるのかを管理しています。」

――選手の状態がほぼ記録されているのですね。そのツールがあってメディカルスタッフの仕事内容は変わりましたか?

 「仕事内容自体は変わらないですね。ただ、作業効率は変わりました。わざわざレポートを作らなくてもこのツールに入力しておけば、誰でもアクセスできるので、情報を簡単に共有できます。監督が見たい時にいつでもスマホでパッと確認できてしまう。私みたいなおじさんは慣れるまで大変でしたが(笑)。若い人にとっては大きな苦労もなく、使いやすいんじゃないかと思います。MRIやCTの画像も送ることができます。まだ使用し始めて2年目ですけど、これが5年、10年と続いてデータが溜まっていけば、より効果的な傾向と対策ができるようになってくると思いますよ」

――ケガの情報はCFG内で共有されているのでしょうか?

 「それはあまり共有しないほうがいい情報だと思います。ただ、CFGメディカルチームのドクター・イアンはアクセスできる。イアンとは毎週火曜日にフェイスタイムでミーティングをしています。トップチームドクターの深井先生、ユースチームドクターの清水先生と私の合計4名で行っています」

――イアンさんとはどのような話をされるのですか。

 「私個人としてはCFGとの提携で感じる最大のメリットはイアンの存在です。経験豊富でリスペクトのできるドクター。何かこちらが相談した場合、必ず答えを出してくれます。例えば今マリノスに前十字の負傷者がいた場合、イアンはマンチェスター・シティの前十字負傷のプロトコル(治療計画)をすぐ送ってくれます。私はマリノスに12年在籍して、途中新潟に9年いて、再びマリノスに戻ってきて2年半というキャリアですが、この直近2年半でイアンから学んだことが本当に大きいですね。『緊急対応プロトコルは各世代のカテゴリーごとに作ったほうがいい』ことなど『しまった、なんで言われる前にやらなかったかな』って悔しい想いをしながらも参考になるアドバイスをもらっています。マリノスにはこれだけ多くの子供達が在籍しているわけですからね。完成したものはすぐユース、ジュニアユースに展開しました。ただ、向こう(シティ)で出来ても日本では出来ないものもありますよね。例えば、シティは芝のピッチが16面ありますが、こちらは練習環境が限られている。だから同じプロトコルを使えるわけではないです。だから、環境の違いを踏まえたすり合わせは意識しています」

――1年半前にマンチェスター・シティの施設をご覧になられたそうですが、その時のお話をお聞かせください。

 「ものすごく大きくて近代的な施設でした。窒素室、エンバイロメントルーム(酸素の濃度が変わる部屋)などはすぐにマリノスに導入するのは難しいかもしれないけど、理想としてそういうものがあるというのを知れたのは大事なことですね。あと、食事のサポートも印象に残っています。ちょっとしたことですが、コーヒーメーカー近辺には砂糖を置いていないんですよ。選手たちは糖分をフルーツで摂る。カフェテリアひとつにしても配慮されていますね。選手はどのような食事を摂るべきかという、食育の情報がモニターで流れてもいました」

――将来的にはマンチェスター・シティのような機材をいれていこうという流れはあるんでしょうか。

 「お金があればエンバイロメントルームや窒素室は導入したいですよね。マリノスタウンにあった流水プールは、久里浜にできる練習場には作られる予定です」

――むこうにいって一番導入したいと思ったものは何でしょうか。

 「リハビリの一環で30メートル走や、アジリティテスト、ホップテストなどはすぐに導入しました。あと、リハビリのプロトコルも取り入れました。ソフト的なものはどんどん取り入れることが出来るのですが、ハード的なものは難しいですよね。繰り返しですが、向こうは練習用のピッチが16面もあるんですから」

――日暮さんが以前マリノスにいたときと今とでは違いを大きく感じますか。

 「メディカルミーティングが増えました。(シティから)うまくいかないことへのアドバイスをもらえるようになりました。あとは、以前マリノスに在籍していた時はGPSを利用したリハビリは行っていませんでしたね。どれぐらいのスピードで、どのぐらいの距離を走ったかがGPSで計測できます。以前はストップウォッチを使ってやっていましたからね。今ではボールを持ったとき、持っていないときで、それぞれどれだけのスピードだったのかがすぐ分かります。距離的には走る量は足りていても、走りの質は足りていないなども把握できます。課題がはっきり分かりますよね。ここは大幅に変わったところです」

――今の時代GPSはどこのクラブも使っているものなのでしょうか。

 「かなり増えたと思います。今CFGで使っているものは、ステップバランスも見ることができます。つまり、どちらの足にどれだけの荷重がかかったのか。健康な足のほうに体重がかかりすぎていないかとか。だからこっちのふくらはぎ張っちゃっているんじゃないのとか。去年はマンチェスター・シティに行って、今年はメルボルン・シティに視察に行きました。今度はジローナに行きたいと書いておいてください(笑)」

――今後シティが行っていてマリノスも導入したいことは何でしょうか。

 「シティは選手のメンタルサポートもしっかりやっています。それも各育成年代ごとに。クラブとしてなのか、リーグとしてもやるべきことだと思いますね。メンタルをサポートするのは本当に大事ですが、私にノウハウがないので答えられない。それはやはり専門家がやらないといけないと思いますね」


kiyoshi HIGURE
日暮 清
横浜F・マリノス ヒューマンパフォーマンスダイレクター。国際武道大学を卒業後、アメリカでの大学院留学を経て、アメリカ現地の高校・大学にてトレーナー活動を開始。サッカーのみならず、テニス、柔道、バスケットボールなどさまざまなスポーツ現場にてトレーナー業務を経験。日本に帰国後はバレーボール界でトレーナーとして活躍。1996年から12年間マリノスでチーフトレーナーを務め、2008年からはアルビレックス新潟に在籍。2017年に横浜F・マリノスに復帰し、日々選手に寄り添いながらチームを支えている。

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最終更新:7/18(木) 12:52
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