ここから本文です

論説コラム:難民問題、目からウロコの新アプローチ

7/19(金) 9:01配信

オルタナ

日本の難民問題というと、正直、またかといささかウンザリという気持ちになる。最新の2018年を見ても申請10,493人に対し難民認定されたのは42人で、認定率はわずか0.4%に過ぎない。国際的にみて、認定率の低さを非難する人たちに対し、法務省は「本当の難民ではなく、大半が経済難民」と反論する。こんな議論が延々と続いている。いつまで、不毛の論戦を続けるつもりなのか。

経済難民が多いのは想像に難くないが、そもそも認定の根拠になっている難民条約は冷戦下の1951年に決められた国際条約で、東欧などの共産主義国から欧米へ逃れてくる政治的迫害者や亡命者を保護するためのものだった。もうモノサシとしては古すぎるのである。

思い出すのは尾崎行雄の三女、故相馬雪香さんの勇気ある行動だ。インドシナ難民があふれた1970年代後半、海外の知り合いから「日本人は難民を受け入れない恥ずべき国だ。日本人の心はコールド(冷たい)」と言われた相馬さんは「冗談じゃない。日本人の心は温かい。国民1人が1円募金してくれれば1億円になる」と一念発起、NGOの難民を助ける会を設立して、4か月で1億円を集め、難民のために寄付したのだ。

日本政府は難民に冷たいかもしれないが、日本人が皆そうではあるまい。海外からの旅行者は激増しているし、折しも労働力不足に対応するための出入国管理法改正による外国人受け入れ制度が4月から始まった。国際的な移動が活発化するなかで、国境の壁が低くなり、日本も外国人を受け入れ、多様性のある価値、文化を受け入れる段階に来ている。難民問題も新たなアプローチをとるべきではないか。

そんな中、この分野で新風を巻き起こしているのがNPO法人WELgee(ウェルジー、Welcome Refugeeの略)である。この団体は「難民はかわいそうな人たちと思われがちだが、実際には才能と経験豊かな注目すべき人材である。是非日本社会で雇用すべき」と頑張っている。確かに、彼らは母国で迫害を受けながらも、大学、大学院卒など高学歴で、医者、プログラマー、会社経営者、建築士もいる。

しかし、日本で働くのに法的な問題はないのか。日本に逃れてきた難民が認定申請をすると8か月は就労許可が出ない。この間は一応給付制度があるものの、審査が厳しく、多くの人は収入はおろか、寝る場所も食べるものもないホームレス状態に置かれる。このため、一般の難民支援団体はセーフティ―ネット支援に注力しているが、ウェルジーは、難民が「働くことが生きること」との訴えに耳を傾け、施しを受けるだけでなく自立にチャレンジする難民に寄りそうことにした。「死の8か月」を何とかクリアーすれば、「特定活動」という在留資格で就労ビザが出るからだ。

今ブームになっているSDGsでも目標8で「働きがいのある人間らしい雇用促進」をうたっている。国や地方自治体が動かないなら、誰も取り残さないというSDGsの精神を守るため企業の協力が必要になる。そこでウェルジーが思いついたのが、研修を終えたあと、職業を紹介しようという就労伴走事業である。マッチング、面談、インターンを経て雇用してもらうのだが、ネックがある。まず、企業側の認識不足。合法的に就労許可を得ていること自体を知らない。能力の高さや優秀さも理解がない。さらに文化や宗教の違いが加わるとハードルは一気にあがり、どうしても企業は採用を躊躇しがちだ。

しかし、ITを中心に5人が正社員に採用されるなど着実に実績をあげている。大企業とも話が進んでいる。新宿でホームレス状態だった20歳代のアフガン難民を雇用したIT企業、アダワープの安谷屋社長は「迫害から逃れ国に帰れない彼らは根性もあり、技術の伸びも早い」と評価する。

ウェルジーでは合わせて大学や企業、自治体向けに難民の人が参加する研修・ワークショップ事業を行っている。難民、貧困、環境など地球規模課題に疎く、自社のリソースを活用しきれていない企業にもっと学び、企業自体の可能性を広げてもらうのが狙いだ。これまでに、ライオン、日本電気、富士ゼロックス、アクセンチュアなど13社に出向いている。これが採用に発展することも期待している。

前述の通り、日本の難民認定率は低い。認定されないと、再申請や裁判、あるいは不法滞在、収容所への拘束、強制退去へとつながる。認定の結果を待たずに、難民が日本でちゃんとした仕事に就き、生きていけるなら、それはすばらしいことだ。何より日本社会に貢献してくれる。経済界の協力で、実質的に難民として認定されたと同じ効果が生まれるからである。

難民は厄介者ではない。ユダヤ人でナチスの迫害を逃れて米国に渡ったアインシュタイン、ロシア生まれで日本のプロ野球で活躍したスタルヒン。ユダヤ人でナチス占領下のチェコスロバキアから英国、その後米国に逃れたオルブライト元国務長官。サッカーのハリルホジッチ監督は内戦のボスニア・ヘルツェゴヴィナからフランスに逃れた難民である。難民は行く先の社会に大いに貢献するのである。

難民の望むのは認定難民という一枚の紙きれではない。自由に学び働く、人間としてごく当たり前の権利だ。そして、それは日本の地域、NPO、企業の協力があれば可能なのだ。カナダのTalent Beyond Boundaryという団体は難民キャンプにいる人たちをカナダやオーストラリアの企業に紹介している。日本でもモンスターラボのようにパレスチナやシリア難民の雇用を考える企業も出始めている。時代は変わっている。ウェルジーのメンバーには経済界が文科省に協力して新しく始めた留学制度トビタテ留学JAPANの経験者が多い。新鮮な発想の芽を伸ばしたいものである。(完)

◆原田勝広
オルタナ論説委員
日本経済新聞記者・編集委員として活躍し日本新聞協会賞を受賞。明治学院大学教授に就任後の専門はCSR論、NGO・NPO論、社会起業家論。2018年より現職。著書は『CSR優良企業への挑戦』『ボーダレス化するCSR』など多数。

最終更新:7/19(金) 9:01
オルタナ

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事