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「娘を売った金で」極貧小作人と横暴官憲の闘い「木崎村小作争議」とは――作家・大宅壮一が振り返る

7/21(日) 17:00配信

文春オンライン

菊池寛らの「農民小説集」で資金集め

 もっとも早く金をつくる手段として「農民小説集」というものを編集し、その印税を寄附してもらうことになった。加藤武雄、藤森成吉、木村毅の共編で、つぎの作家から農民をあつかった作品を1篇づつ出してもらった。

 芥川竜之介、菊池寛、吉田絃二郎、秋田雨雀、真山青果、中村星湖、小川未明、細田民樹、中条百合子、金子洋文、中西伊之助、犬田卯、和田伝、鈴木喜和雄、今野賢三、悦田喜和雄のほかに、編者の3人と私も加って、合計20人である。

 私の場合は、まったく処女作、というよりも、このほかに私は小説らしいものを2、3篇しか書いていない。これは、題名を忘れてしまったが、この少し前に「文芸春秋」に投じて採用になったところ、印刷所の火事で原稿もゲラ刷りも焼けてしまったのをもう一度思い出して書いたものである。

 これらの作家の承諾を求めるために、私は同社に入社してまもない楢崎勤君と手分けて訪ねてまわったが、いずれも大賛成で、断ったのは正宗白鳥氏ただ1人だった。正宗氏のいい分は、

「私は岡山県の地主で、今も小作人にはひどい目にあっているから、こういう運動を応援するわけに行かない。私にいわせれば、ふだんブルジョア呼ばわりされている菊池君とか資本家である新潮社がこれを応援する気がしれない」

 というのである。いかにも白鳥らしいものの考え方である。

 それはさておいて、この小説集は定価が1円80銭で、初版3000部の印税580円入ったが、これだけでは、田舎のどんな小さな学校でも建つものではない。そこで関係者一同相談の上、新潮社から3、4000円ばかり借り出すことになった。といって、無条件、無担保で借りられるものではない。結局、当時「死線を越えて」その他出るもの、出るものベストセラーとなっていた賀川豊彦氏の全集を担保にするということで、建築用材を仕入れるのに必要な金を借り出すことができた。とにかく材木を現場にもちこめば、あとはどうにかなるというので、三宅君はこの金をにぎって新潟へ急行した。

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最終更新:7/21(日) 17:00
文春オンライン

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