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雨でも客を呼びたい 逆転のアイデア探し(立川吉笑)

7/22(月) 7:47配信

NIKKEI STYLE

パッとしない天気が続くなか、この原稿を書いている。そういえば、パッとした天気とは具体的にどういった天気を指すのか分からないけど、とにかくこの数日は濃い雲が街を覆い続けているのは確かだ。これが梅雨か。
僕のような若手落語家にとって天気は切実な問題だ。雨の日は晴れの日に比べてお客様が目立って減ってしまう。売れっ子の人気落語家であれば、チケットは前売で完売。雨が降ろうがすでに売り上げは確定しているけど、若手の小規模な会はプレイガイドを通さずに予約を受け付けて当日精算という形がほとんどだ。当日券のみの落語会も少なくない。
強い気持ちで「吉笑さんの落語を聴きに行こう!」と思ってくださる熱心なお客様は雨でも足を運んでくださるけど、一方で「夜から暇ができるけど、何しようかなぁ?」と思い立っていらしてくださる方や、「気分が乗ったらこの日の吉笑さんの会に行ってもいいかな」くらいにうっすら手帳に印をつけてくださっているようなライトなファン層の来場数はやっぱり減ってしまう。実際問題、風が心地良い晴れた日と大雨が降っている日とでは当日券の売れ行きが大きく違う。雨の日に出歩くのが億劫(おっくう)に感じるのは当たり前だ。
しとしと降る雨をぼんやり眺めながら「いつまで雨に振り回されなきゃいけないのか」と思った。当たり前の話、これから先も雨の日はたくさんある。そして落語会の日が雨になることも当然たくさんある。
■デメリットをメリットに変える
そう分かりきっているのに、なす術なく「雨だからお客様が少なかったなぁ。とほほ」と落ち込んでいていいのか。反対に「雨の日だから増えた!」というようになることを夢見て、何か手を打つべきじゃないのか。そんなふうに思うようになった。
憂鬱な雨の日を少しでも楽しく過ごすために、素敵(すてき)な傘を買ったり、おしゃれなレインブーツを買ったりするのは有効だ。僕も今シーズン、数年ぶりにレインブーツを買った。信頼しているセレクトショップの店員さんに勧められた「ムーンスター」という上履きなんかを作っているメーカーのレインブーツがとても可愛(かわ)いかったから、奮発した。
「雨が降らないと履けない」と思うと、次の雨の日が待ち遠しくなる。今のところまだムーンスターのレインブーツを履いている自分が新鮮だから、雨の日が少しだけ楽しみだったりする。
「雨の日を快適にする」というマイナスをゼロに戻すどころか、「雨の日だからこそ楽しめる」とデメリットだったものをメリットに変えてしまった好例としてキングコング西野亮廣さんがゴールデンウイークに開催された個展がある。
兵庫県にあるお寺で開かれた個展は「チックタック~光る絵本と光る満願寺展~」というタイトルで、その名の通り、西野さんの絵本の原画そのものが光る。絵に光をあてるのでなく、LEDライトが仕込まれた絵そのものが発光する仕組みだ。
静かなお寺の境内に、ずらっと並べられた絵本の原画。その一枚一枚が綺麗(きれい)に光り輝く。それを観客はイルミネーションを楽しむように眺めて歩く。
野外イベントだからもちろん晴れている日の方が過ごしやすいし気持ちも良いけど、雨が降ったらダメだと思いきやそうでもない。というのも雨の日はお寺の石畳に水たまりができる。その水たまりは原画の光を反射する。つまり、晴れた日よりも雨の日の方が全体の光量が増えるのだ。光量が増えるのはイルミネーションとしてはプラスでしかない。
これなら「やったー、雨が降ったから、綺麗な原画展が見られる!」と、雨をプラスに変換できる。もしかしたら「あす原画展に行くからどうか雨が降りますように」と雨を期待しながら眠った人すらいるかもしれない。
■雨に負けない芸
僕の表現するものが「落語」である以上、西野さんの個展のように雨をそのままプラスに転換するのは難しい。今のところその方法を思いつけていない。その代わり一時しのぎの方策かもしれないけど、「雨の日の公演でしか販売しない音源」を作ったらどうかと閃(ひらめ)いた。
雨が印象的な落語は「笠碁」などいくつかある。普段の高座では今のところ演(や)ったことがない雨にまつわる落語を何席かと、ちょっとしたトークなんかが入っている音源を作る。「次の雨の日の憂鬱な午後に楽しんでくださいね」というような意味合いだ。
これは、巷(ちまた)に溢(あふ)れる「雨の日割引」くらいの、少しだけ雨のデメリットを減らす効果しかないかもしれないけど、ちょっと僕に興味があるくらいの落語ファンだと「ちょうど雨の日限定の音源も買えるから足を運んでみようかな」となる可能性はある。1回は雨をプラスに反転させることができる。
「雨に負けるような芸しかできないからダメなんだ」と、どこかからお叱りを受けそうな気がしてきた。宮沢賢治の手帳には「雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ……」と書いてあったそうだけど、なかなかたいへんなことだと思う。
たかが天候だけど、されど天候でもあって、どうしても気持ちを左右されてしまうものだ。やっぱり晴れの方が機嫌よく過ごせる確率は高い。だからこそ、一人でも多くの人にとって雨の日が楽しくなるような工夫はないか、娯楽を提供する職業に就くものとして考えていく。ちょっとおこがましいけど「サウイフ落語家ニワタシハナリタイ」。
立川吉笑本名は人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。エッセー連載やテレビ・ラジオ出演などで多彩な才能を発揮。19年4月から月1回定例の「ひとり会」も始めた。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)。
これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧ください。

最終更新:7/22(月) 12:15
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