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「慰安婦」報道名誉毀損訴訟、元『朝日』記者の請求棄却 東京地裁

7/22(月) 11:04配信

週刊金曜日

「慰安婦」報道をめぐる名誉毀損訴訟でまたも「不当」判決が出た。

 訴えていたのは元『朝日新聞』記者の植村隆氏(韓国カトリック大学校客員教授、本誌発行人)。1991年に韓国人元「慰安婦」金学順さんの匿名告発(当時)を報じた記事を「捏造」と決めつけられたとして元東京基督教大学教授の西岡力氏と『週刊文春』発行元の文藝春秋に謝罪と2750万円の損害賠償などを求めていた。

 東京地裁(原克也裁判長)は6月26日、植村氏の請求を棄却した。西岡氏の論文や発言と『週刊文春』の記事が植村氏の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損したことは認めたが、被告に負うべき責任はないと断じた。植村氏はジャーナリストの櫻井よしこ氏とワックなど出版3社を訴えて札幌地裁でも争っていたが、昨年11月9日に敗訴し控訴中である。甚大な被害を訴え、司法に救済を求めた植村氏だが、逆に司法から冷たい仕打ちを重ねて受けることになった。植村氏は控訴する方針。

 判決は、植村氏の記事について西岡氏が「捏造」と指摘した次の三つの点について判断を下した。

(1)金学順さんがキーセンに身売りされた経歴を知りながら、あえて記事に掲載しなかった。

(2)義母の裁判を有利にするために、意図的に事実と異なる記事を書いた。

(3)「金学順さんが女子挺身隊として日本軍によって戦場に強制連行された」との事実と異なる記事を意図的に書いた。

 (1)と(2)については判決はいずれも原告側の主張を認め、真実性を否定した。西岡氏の指摘はいずれも真実ではなかったのだ。

 しかし(1)については当時の韓国の新聞記事が金学順さんのキーセン学校に通っていたことを報じていたことなどを理由に、(2)についても原告の義母が幹部である遺族会が日本政府を相手に起こした裁判の「提訴と比較的近い時期に(記事が)掲載された」などの事情をあげて「推論として一定の合理性がある」と判断。西岡氏に「真実と思い込んでもやむを得なかった相当の理由がある」(真実相当性)を認めて免責してしまった。

 さらに問題なのは、(3)について初めて「真実性」を認めたことだ。

【判決の根拠に説得力なし】

 植村氏の記事の前文は「日中戦争や第二次大戦の際、『女子挺身隊』の名で戦場に連行され」と書いていた。一方、記事の本文では「だまされて慰安婦にされた」とも書いた。ここに判決文が言及した部分は、記事の前文について、

〈原告が意識的に言葉を選択して記載したものであり、原告は、意識的に、金学順を日本軍(又は日本の政府関係機関)により戦場に強制連行された従軍慰安婦として紹介したものと認めるのが相当である。すなわち、原告は、意図的に、事実と異なる記事を書いたことが認められ、裁判所認定摘示事実3は、その重要な部分について真実性の証明があるといえる〉

 というのである。

「真実性」は「真実相当性」「公共の利害」「公益目的」とともに名誉毀損訴訟で被告を免責するために必要とされる条件だ。このうち「真実性」「真実相当性」には確かな論理と根拠による説得力が求められる。特に「真実性」は「真実相当性」よりも積極的な判断だから一層の厳密さが必要である。

 だが判決が挙げた根拠に説得力はない。それらを具体的に示すと▽『朝日新聞』は当時植村氏の記事の前後に強制連行を供述した吉田清治証言を多数掲載している。

▽植村氏は「金学順さんはだまされて慰安婦にさせられた」と供述。

▽新聞記者は記事中の言葉の選択には細心の注意を払うであろう。 などというものだが、これらについて植村氏は提訴以来一度もぶれることなく、こう主張してきた。▽挺身隊は当時、韓国では「慰安婦」をさす呼称だった。

▽「挺身隊の名で連行」との表現は当時、日本のどの新聞も書いた。

▽金さん自身がその後、「挺身隊だった」「連れて行かれた」「慰安婦にさせられた」と証言している。

 すべて西岡氏には不都合な真実だが、裁判所は真摯に読み取ろうとしなかった。

(中町広志・フリー、2019年7月5日号)

最終更新:7/22(月) 11:07
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