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新海誠は原点を見失わない 『天気の子』は『君の名は。』を超える

7/22(月) 16:50配信

FRIDAY

3日間で115万人が観た! 新たな金字塔を打ち立てるか?〔レビュー〕アニメ・ジャーナリスト数土直志

新海誠監督の最新作『天気の子』が7月19日に公開された。前作『君の名は。』(2016年)が興行収入250.3億円を記録し、監督をはじめ関係者に大きなプレッシャーがかかる中、初日~3日間の興行成績は『君の名は。』対比で128.6%、16億4380万円。動員は115万9020人と絶好調のスタートを切った。

【21カットの美麗画像】「天気の子」キャラクター・ビジュアルギャラリー

『天気の子』の見所は何なのか? 『君の名は。』と何が違うのか? アニメ・ジャーナリストの数土直志氏によるネタバレ極小の分析レビューをお届けする。

『天気の子』の物語は雨から始まる。時たまに陽の光は差すのだが、むしろ全編途切れることなく続く雨が、メランコリックな雰囲気を醸し出す。ただ本作の最大の特長である「憂い」は、雨だけが理由ではない。それはむしろ登場人物たちの心のなかに広がる雨空にある。

主人公の森嶋帆高は両親も住む島から家出して、東京にやってきた。そこで彼が出会う少女・天野陽菜は母を亡くして弟とふたり。帆高と陽菜はふたりとも決して豊かでなく、お金稼ぎに苦労して行き場がない。そんな帆高を助ける編集プロダクションを運営する圭介にも、一人娘と離れて暮らさざるを得ない事情がある。

しかし不思議なことは、なぜ帆高が島の生活に息苦しさを感じ、頑として帰ることを拒むのか作中では言及されていない。陽菜の母や圭介の過去の家庭事情も語られない。彼らが人に語りたくないということは作中でも語られない。ただ3人の心のなかに雨雲が広がっていることだけがわかる。

物語の前半はそんな登場人物たちの曇り空の存在を確認するパートだ。となれば後半はキャラクターたちの心の雨空が晴れあがり、明るい天気にどう向かうかが中心となり、それは実際の天気、雨続きの異常気象が止まることに結びつくはずだ。観客はそう期待する。

実際に物語は一旦、晴れた青空が垣間見え始める。陽菜の祈りによって眩しい光が現れる。こうしたシーンは新海作品ならではの美術表現の真骨頂である。帆高と陽菜の心にも陽の光が差しだす。

しかし晴れた空には、代償がある。そうなれば物語はストレートに進まない。この先と結末は映画を観て確認して欲しいところだが、一筋縄のハッピーエンドとまた異なるのが今回の『天気の子』の魅力だ。

それは前作の『君の名は。』(2016年)とは対象的だ。『君の名は。』では、彗星の墜落という悲劇から町を救おうとする。町全体を飲み込む大きな災厄は、『天気の子』にも通じるシチュエーションだ。

しかし『君の名は。』には大きな危機はあっても、作品全体を流れるトーンはどこか明るくストレートだ。瀧も三葉も事件が起きなければ、幸せで恵まれた生活を送っていた。一方で『天気の子』の帆高と陽菜は、どこかしら不幸を背負っている。それが最初に言及したメランコリーである。『君の名は。』と『天気の子』はこの点で決定的に違う。

前作とは対照的な『天気の子』だが、もう少し長いスパンで見ると憂いを帯びた物語は、むしろ本来の新海誠監督の作品の特長である。

『ほしのこえ』(2002年)の主人公ふたりはおそらく二度と会うことはなかったし、『言の葉の庭』(13年)のユキノは初めて登場した時から心の平穏を崩していた。これまでの新海作品はどこか幸せに届かない、そうしたシチュエーションが人の心を捉えてきた。『天気の子』は、そうした作品群の系譜にある。作中で描写されるいくつかの大事な人の喪失も『雲のむこう、約束の場所』(04年)や『星を追う子ども』(11年)などで執拗に追われてきたものである。『天気の子』は、『君の名は。』以上に新海誠らしいと言っていい。

『君の名は。』は、日本映画史に残る大ヒットとなった。興行収入250億円超にもなれば、大抵の人は自惚れして、少し変わってしまうのではないだろうか。より「自分自身の作りたい」が表に立ち、それが許される。しかし新海誠監督は20年前のアマチュア時代から全く変わらない。「自分の作りたい」と同時に観客の求めるものを意識し続ける。ファンとのコミュニケーションの中から、いかに観客が作品を楽しんでくれるかを探り続ける。『天気の子』でも同じことが行われている。だから『天気の子』はとても面白い。

『天気の子』は新海誠監督がどんなシチュエーションになっても揺るがず、ぶれのないこと示した。変らぬ意思の強さこそが新海誠の最大の特長で、それが作品が多くの人に心の届く理由である。

稀代のクリエイター新海誠、それを発見する作品が『天気の子』なのである。


文:数土直志(すどただし)
アニメジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

最終更新:7/22(月) 19:01
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