ここから本文です

テスラ社の自動運転車で初の「交通事故」 夫を奪われた妻の悲痛な叫び

7/22(月) 8:00配信

デイリー新潮

 男性が神奈川県警から受けた説明によれば、まず、道路上にいた彼らに向かって車両が加速して近づき、停車中のバイクを撥ね飛ばした。宙を舞ったバイクは櫻井さんたちにぶつかる。衝撃で路上に転倒した櫻井さんの頭部を、この車両が轢(ひ)き、そのままキャラバンに追突したのだ。

夫の事故を知ったとき

 事故を引き起こしたことで現行犯逮捕され、まもなく横浜地検が「過失運転致死傷罪」で起訴したのは、伊藤展慶被告(49)。彼が運転していたのは、米電気自動車大手・テスラ社の「モデルX」だった。

 事故当時仕事中だった、櫻井さんの妻は、義母からの連絡で夫の事故を知った。

「“落ち着いて聞いてちょうだい”と前置きされてから、夫が事故で亡くなったと聞かされました。気が動転した私は、高校2年生の娘に電話をかけて“すぐお父さんの実家に来なさい”とだけ伝えるのが精いっぱい。ただ、実家で事実を知った娘は泣き崩れてしまい……。過呼吸を起こして椅子に座ることもできなかった。思春期に入ってからも娘は夫と仲が良く、夫のバイクの後部座席に乗って出かけることもしばしば。初めて渋谷の109に行った時も夫が同伴していました。それだけにショックも大きく、事故から数日は何も口にできない状態でした」

 事故当日の深夜、櫻井さんの妻は神奈川県警の厚木分駐所を訪れている。

「そこで夫と対面しました。体つきですぐに彼だと分かりましたよ。でも、頭蓋骨が砕けて、顔は原形をとどめていませんでした」

 突然の事故で大黒柱を失い、女手ひとつで失意の底にある高校生の娘を育てることとなった母親の心中は察するに余りある。

 遺族側は民事訴訟も辞さない覚悟だが、事故からまもなく始まった刑事裁判で彼らを待ち受けていたのは、あまりにも予想外の展開だった。

 被告人側は、事故の原因が「自動運転自動車」の「暴走」にあると断じ、「無罪」を主張したのである。

「居眠り」はしていたが…

 ご存知の通り、世界中の自動車メーカーやグーグルをはじめとするIT企業は目下、自動運転技術の開発にしのぎを削っている。なかでも、「鉄腕アトム」のようなSF作品に親しんできた日本人が、夢の次世代技術に期待の眼差しを向けるのは自然なことかもしれない。

 また、今年4月に東京・東池袋の路上で87歳の男性が運転する車が暴走し、多数の死傷者を出すなど、高齢ドライバーによる痛ましい事故も後を絶たない。こうした悲劇をなくす意味でも、自動運転車の早期導入を望む声は高まるばかりだ。

 しかし、冒頭の事故を巡る裁判では、そんな夢の「自動運転車」が、「暴走」の果てに人命を奪ったのではないか、という点が争われているのだ。

 問題となった「モデルX」はアメリカの著名な実業家、イーロン・マスク氏が立ち上げたテスラ社製の車で、日本では2016年から販売が開始された。

 自動運転の段階としては掲載表における「レベル2」に該当する。ちなみに、レベル3以上は現在、日本の公道では走行が許されていない。

 テスラ社のHPではモデルXを〈史上最高の安全性と性能を持ち〉、〈ほとんどの状況下で作動する将来の完全自動運転に対応するハードウェアが搭載されています〉と紹介している。

 今回、事故を起こした車両は、自動緊急ブレーキや、正面衝突警告システムに加え、「トラフィックアウェアクルーズコントロール」なる機能が作動する設定となっていた。これは、前方の車両と一定の車間距離を保ち、自動で追従走行する機能を指す。

 櫻井さんの遺族によれば、被告人側の主張は概ね次のようなものだった。

・事故当時、被告人が居眠りをしていたことは認める。

・しかし、事故を起こす直前までは、居眠り運転でありながらクルーズコントロール機能によって安全に運転されていた。

・ただ、事故の2秒前にこの機能が故障。前方の障害物を認識しないまま加速する「暴走」状態に陥った。

・自動ブレーキも警告システムも全く作動せず、事故に至っている。

・被告人はアクセルもブレーキも踏んでいない。システムの故障が原因なので、被告人が起きていたとしても事故は回避できなかった。

――したがって、「被告人は無罪」というわけである。

 事故の直前に、テスラ車の前を行く車両が車線を変更しており、その際、前方の人影を感知できなかったテスラ車が、自動的に車間距離を詰めようとして加速した可能性もある。さらに、被告人は事故の衝撃で目を覚ましている。つまり、事故当時のモデルXは、図らずも完全に人の手を離れた「自動運転」状態にあり、コンピューターシステムの「暴走」が事故に繋がったこと自体は否定しづらい。

2/3ページ

最終更新:7/22(月) 8:00
デイリー新潮

記事提供社からのご案内(外部サイト)

デイリー新潮

新潮社

「週刊新潮」毎週木曜日発売

「デイリー新潮」は総合週刊誌「週刊新潮」が発信する最新の話題に加え、専任取材班による綿密な取材に裏打ちされた記事を配信するニュースサイトです。

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事