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18歳で時が止まった少女をめぐる青春と追憶のミステリー

7/25(木) 7:00配信

Book Bang

 もっとも難しい謎は人の心だ。

 ミステリーはさまざまな「なぜ」を扱ってきたジャンルである。犯罪者の動機を追究することに始まり、特殊な状況下で人の心が常とは異なる向きへと進むことの不思議さを、ミステリーは重要な主題として取り上げてきた。浅倉秋成『九度目の十八歳を迎えた君と』はその系譜に連なる長篇である。

 印刷会社に勤める〈俺〉こと間瀬豊はその日、通勤途中の駅で向かいのホームに立つ二和(ふたわ)美咲の姿を見かける。高校二、三年のときの同級生で、密かに恋心を抱いていた女性だ。しかし間瀬は我が目を疑う。二和が十八歳の姿のまま全く変わっておらず、しかも高校の制服を着ていたからだ。別人ではない二和美咲だ。

 かつての母校を訪ねた間瀬は、二和がいまだに高校三年生として学校に通い続けていることを知る。彼が卒業した後も変わらず、これが九度目になる十八歳の年を繰り返しているのだ。奇妙なことに周囲の者は、それを受け入れているらしい。違和感を覚えているのは間瀬だけなのだ。

 二和と一緒に高校を卒業したいという同級生の夏河理奈の頼みもあり、間瀬は自分も高校三年生だったあの年について調べ始める。夏河によれば、二和が十八歳を繰り返す理由はそこにあるはずだというのである。二和の人生に関する調査は、間瀬自身の過去、封印したかった記憶との対決を彼に求めてくる。

 浅倉の前作『教室が、ひとりになるまで』(角川書店)はファンタジー要素のある謎解き小説だった。本書では手がかり呈示がさらに効果的な形で行われるため、謎が解かれた瞬間に重い感慨がこみ上げてくる。

『教室が、ひとりになるまで』では自我の形成期ゆえに味わう疎外感がミステリーの謎と密接に絡んでおり、その真相も哀切なものであった。本書でも高校生活ゆえの不自由さ、まだ何者でもないがゆえの十代の鬱屈が繊細な筆遣いで綴られていく。

 たとえば、好きな女性に振り向いてもらうために間瀬が当時とった行動は、振り返ってみれば滑稽ともいえるものだった。そうしたちぐはぐさも、柔らかい筆致の中にくるまれた形であれば、すでに青春期を卒業した読者にとっては微苦笑を誘うものになるだろう。時の流れが心の痛みを和らげるのだ。

 変わらずにいること、変わっていくこと。その両方の意味を問うた後に、本書は読者に語りかけてくる。今いる場所にあなたはいていい。そして前に歩きなさい、と。

[レビュアー]杉江松恋(書評家)
1968年東京都生まれ。ミステリーなどの書評を中心に、映画のノベライズ、翻訳ミステリー大賞シンジケートの管理人など、精力的に活動している。著書に海外古典ミステリーの新しい読み方を記した書評エッセイ『路地裏の迷宮踏査』『読み出したら止まらない! 海外ミステリーマストリード100』など。2016年には落語協会真打にインタビューした『桃月庵白酒と落語十三夜』を上梓。近刊にエッセイ『ある日うっかりPTA』がある。

新潮社 週刊新潮 2019年7月25日号 掲載

新潮社

最終更新:7/25(木) 11:09
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