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朝日の偏向用語「前のめり」

7/28(日) 18:01配信

Japan In-depth

玉木代表の同じ動きを報じた他の新聞の記事をみてみよう。

読売新聞は玉木氏のその改憲への新たな姿勢について「積極的に議論する姿勢を示した」と書いていた。これなら記事を流す側の意見を露骨にみせない客観的な記述といえよう。日本経済新聞は「玉木氏は憲法改正で前向きな発言」と書いていた。

「前のめり」ではなく「前向き」なのである。この相違は大きい。「のめり」は倒れそうな前向きの動き、つまずきそうな動きを意味するのに対して、「前向き」は単に前に向かうという意味だからだ。「前のめり」という言葉にはその動きがまちがいだとか、性急で準備不足だという決めつけが最初から明白なのである。

日本のメディアでは「前のめり」という用語は朝日新聞が最初に、しかも最も頻繁に使ってきた。他のメディアも使うことがあるが、その頻度はずっと少ない。

古い話だが、朝日新聞は2001年9月14日朝刊に「前のめりはよくない」という見出しの社説を載せていた。日米共同のミサイル防衛構想を「前のめり」と断じて、反対する主張だった。その社説の結論部分には以下のような記述があった。

「列島をハリネズミのようにするミサイル防衛が日本の安全保障のあるべき姿だろうか」

「防衛庁長官のこの前のめりの姿勢は危なっかしい」

「ミサイルごっこの『仮想現実』から一刻も早く目覚めるべきだ」

さて朝日新聞はいまも日本にとってのミサイルの脅威を「仮想現実」と呼ぶだろうか。北朝鮮や中国が日本に照準を合わせて実戦配備する多数のミサイルの存在が「仮想」なのか。朝日新聞こそ、日本にとってのミサイルの脅威が「ごっこ」だとか「仮想」だと断じる仮想からすでに目覚めたことだろう。いまなら日本国民の大多数が賛成する日米ミサイル防衛の構想に賛成することを朝日新聞が「前のめり」だと非難していたのだ。

朝日新聞のこのへんの日本の防衛に関する奇異な立場はともかく、その奇異を正当づけるために自分たちの反対する動きには「前のめり」という否定的なレッテルを貼る手法は普通の報道ではなく、政治プロパガンダに相当する。「前のめり」という表現自体、客観的にはなんの根拠もなく、自分たちの嫌いな言動へのののしりにすぎない言葉なのだ。

言語の意味や機能について研究する学問「セマンティックス(意味論)」の権威S・I・ハヤカワ氏の名著「思考と行動における言語」の説明に従うと、朝日新聞の好きな「前のめり」というのは「taka」というカテゴリーに入るようだ。

ハヤカワ氏の分析によると、人間の使う言葉は「報告」「推論」「断定」の3種類に分けられる。「報告」は事実を客観的に伝える証明可能な記述であるのに対して、「推論」は証明可能の事柄を根拠に証明困難な記述をすること、「断定」は事実に関係なく、その言葉の使い手の好き嫌いを表するだけの記述だという。そして「断定」のなかには「イヌの吠え言葉」と「ネコなで言葉」があり、前者はその言葉の使い手の負の感情や思い込みをただぶつけるだけで、事実とはとくに無関係なのだそうだ。

この「前のめり」というのもまさに朝日新聞側が嫌悪や拒否の思いこみを表現するだけの「吠え言葉」だと考えると、ストンと納得がいくようである。


【訂正】2019年7月28日
本記事(初掲載日2019年7月28日)の冒頭、【まとめ】の中で「反対する記事に多用」とあったのを「反対する対象に多用」に訂正致しました。

訂正前:朝日新聞「前のめり」を自分たちが反対する記事に多用。
訂正後:朝日新聞「前のめり」を自分たちが反対する対象に多用。

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

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最終更新:7/28(日) 23:30
Japan In-depth

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