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阿川佐和子/認知症は怖くない 明るく可愛くボケてゆく母――文藝春秋特選記事【全文公開】

8/1(木) 5:30配信 有料

文春オンライン

阿川佐和子さん(作家・エッセイスト)

「これは普通の物忘れじゃないぞ」

 私がそう感づいたのは、2011年の秋。当時、母は83歳でした。狭心症の発作で母が入院し、血管にステントを2本入れる手術をしたあとのことです。

 病室でふと、半年前に起きた東日本大震災の話になったら、母はきょとんとした顔で、「エッ、そんな地震あったの?」と言ったんです。

 以前から兆候は感じていました。銀行に行って下ろしてきたお金をどこにしまったかわからなくなって、しばらくして下着の間から出てきた、なんてこともありました。

 この頃、長年来てくださっている家政婦さんから「こんなこと言うのはナンですけど、奥さまはちょっと物忘れが尋常じゃありません」と電話をもらって、ずいぶんショックを受けたことも覚えています。

 狭心症の手術より少し前、両親と私と弟の4人で外食したときのことです。母がお手洗いに立った隙に、父は私たちに向かって、神妙な顔で、「お前たちは気づいているかどうか知らんが」と、切り出すと、

「母さんは呆けた!  母さんは呆けた!  母さんは呆けた!」

 大きな声で3回、繰り返しました。私は心の中で、「そんな大きな声を出さなくたって、ちゃんと気づいてます」と思ったものですが、父にとっては母の変化がとてもショックだったのでしょう。

 その後、わずか半年前のあの大地震を忘れていたことで、「ああ、これは認知症が始まったな」と、私たちは覚悟を決めたわけです。 本文:7,480文字 写真:3枚

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阿川 佐和子/文藝春秋 2019年7月号

最終更新:8/25(日) 21:59
文春オンライン

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