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火星を“地球化”して移住するには、ある素材が生み出す「温室効果」が鍵になる

8/2(金) 12:11配信

WIRED.jp

赤外線を通し、紫外線を跳ね返す素材

ワーズワースは『Nature Astronomy』のオンライン版に発表した新しい論文で、候補になる材料を提案している。それがシリカエアロゲルだ。

この名前を覚えている人もいるだろう。1999年に打ち上げられた米航空宇宙局(NASA)の宇宙探査機「スターダスト」が、宇宙塵を収集するために使った素材だ。二酸化ケイ素の骨格構造をもつ極めて低密度な物質で、ほとんどが空気であり、「凍りついた煙」とも呼ばれる。熱伝導性は極めて低い。つまり、宇宙船にぴったりな断熱材だ。

しかも、この材料は半透明だ。シリカエアロゲルの巧妙な分子構造により、可視光や赤外線光の光子が十分に効率よく透過して、その向こう側にある物質の温度を、はっきり確認できる程度まで上昇させる。

一方で、紫外線のうち人間を日焼けさせる波長と人間のDNAを破壊する波長は、外側で跳ね返される。まるで招待客リストに「紫外線」という名前がなかったときのプライヴェートパーティーのようだ。

実験で得られたデータが示したこと

もちろんワーズワースは、このアイデアをまで火星ではテストしていない。チームが研究所で実施したテストでは、ポリスチレン製の箱の中に火星の環境を再現し、そこに厚さ2~3cmのエアロゲルを設置してから、火星における太陽光を模した光を照射した(実験では砕いたエアロゲルとタイル状のエアロゲルの両方が使われた)。この結果、温度は50℃上昇している。

「エアロゲルが半透明であるということは、光を拡散させるが大部分の光は通過することを意味しています」と、ワーズワースは説明する。「完全に透明なエアロゲルができれば、数百℃の温度上昇が可能になるでしょう。その限界は材料科学の問題であり、基本的理論の問題ではありません」

チームが次に実施したのは、得られた温度変化の測定値を、火星の表層土環境などを含めたコンピューターモデルに投入することだった。「火星の季節周期や大気圧などのデータも入れてから、われわれの結果について推定しました」と、ワーズワースは言う。

そして得られた数値は、エアロゲル層の下では火星の土が速く温まり、液体の水を得られる温度になるというものだった。生命を養うために重要なそのほかの物質がすでに存在していることを考えれば、エアロゾル下の閉鎖領域(おそらく軽い圧力をかけた領域)では、生命体を養うことさえ可能かもしれないと、ワーズワースは語る。

「今後出てくる大きな論点は、バイオマス燃料をつくるのか、それとも作物を育てるのかになるでしょう」とワーズワースは指摘する。「後者の場合は温室のような構造のほうが理にかないます。バイオマス燃料の原料にするために地表で藻を育てるだけでよいというのなら、文字通り表層だけ使えばいいことになります」

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最終更新:8/2(金) 12:11
WIRED.jp

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