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コンサートホールの周囲にある“スペース”の大切さについて

8/5(月) 8:10配信

otocoto

クラシックのコンサートでは静寂が大事である。他のジャンルと大きく違う点のひとつとも言えるだろう。その静寂は、コンサートホールや劇場の中だけではなく、その周辺にも空間的に広がっていると、より大きな効果を発揮することできる。今回は、PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌)のメイン会場、札幌交響楽団の本拠地であり、さらには多様なクラシック公演が年間を通しておこなわれている札幌コンサートホールkitaraを例にとり、コンサートの前後の時間に過ごすことのできる、ゆったりとした空間の大切さについて書いてみた。

札幌コンサートホールKitara(キタラ)は、世界で最も美しいコンサートホールのひとつである。
音響の素晴らしさはサントリーホールに勝るとも劣らないが、ここの特徴は何といっても、札幌のほぼ中心部にありながら、豊かな緑に彩られた見事なロケーションに恵まれていることである。

JR札幌駅から地下鉄南北線で約10分、中島公園駅で下車して、木々の緑もまぶしい公園の歩道を5分ほど歩いていく時間は、コンサートへの期待に満ちた素晴らしい散歩となる。

ここでは演奏が終わった後、ホールを出るとすぐに繁華街の喧騒に巻き込まれることもない。まだ身体の中で鳴っている余韻と興奮を大事に抱えながら、夜風に吹かれながら公園を歩いて駅に向かうクールダウンの時間もまた、音楽のうちである。

もし時間があれば、マチネの上演の場合などは、公園も明るいから、芝生の上を自由に歩き回れる、木立の美しい池のほとりを、ゆったり散歩してみるのもいい。
鳥たちのさえずり、カエルの鳴き声、風に揺れる木々の葉擦れの音――。
いい音楽の前後にそうした静寂があるだけで、何倍も豊かな時間を過ごすことができる。

世界の優れたコンサートホールや劇場を見渡してみると、都会の中心部にあっても、何とかして、周囲に広場を作り、クールダウンの美しい時間とスペースを確保しようとしているケースが多いことに気が付く。

たとえばニューヨークのリンカーン・センター。ここはブロードウェイのなかにあって、メトロポリタン・オペラを中心とする大規模な総合芸術エリアとなっているが、その中央には大きな広場があり、噴水が優雅に湧き出している。
開演前、終演後には、この噴水広場がとても大きな役割を果たす。これから上演される舞台への期待感を高め、演奏が終わったあとの余韻を味わうために、この広場は、どうしても必要なスペースとして、ニューヨークの人々に愛されているのである。
マンハッタンの真ん中の一等地だからといって、ぎっしり建物を詰め込むのではなく、こうして空間的にも余裕をもたせることで、そこにやってくる人々の心を豊かにしようとする配慮が、そこにはうかがえる。

サントリーホールもそうだ。赤坂アークヒルズのなかで、ホールの正面にはカラヤン広場と名付けられたスペースがあり、噴水もある。何とか空間的なゆとりをもたせようという工夫、それはいい音楽には欠かせない。
ふだんは公開されていないが、実はホールの屋上にはルーフガーデンと名付けられた緑の庭園もある。特別公開されている時期には、ぜひ散歩することをお勧めする。

もしあなたがコンサートやオペラやバレエなどに出かけるのであれば、劇場には時間的余裕をもって出かけ、その近くに必ず用意されているであろう、広いスペースをぜひ精神的なゆとりの場所として意識したいものである。

文・林田直樹

最終更新:8/5(月) 8:10
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