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連載第27回 2015年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

8/6(火) 7:00配信

ウォーカープラス

■ あなたはドラマに愛されている。

マイナンバー制度がスタートし、第8回ラグビーワールドカップでは日本が南アフリカから歴史的勝利を収め、五郎丸ポーズが大流行。さらには第153回芥川賞において、お笑い芸人・又吉直樹による「火花」が受賞。芸能界では福山雅治が吹石一恵と結婚し、世の女性たちが悲鳴を上げていた。そんな2015年について、「テレビドラマも、ズラリと話題作が並んでいますね。非常に興味深いです」とリストを見て目を輝かせた影山貴彦氏。まずは「個人的にも思い出が深いんです」と、あの作品から語り出した…!

元毎日放送プロデューサーの影山教授

■ ストイックな俳優がドラマ通を唸らせる…佐藤健と鈴木亮平「天皇の料理番」

―名作が並んでいる2015年。その中で特に印象深かったドラマを教えてください。

「天皇の料理番」ですね。まさにTBSの開局60周年記念番組にふさわしいドラマだと思いました。私は1980年に放送された堺正章さんのオリジナル版が大好きだったので嬉しかったですね。2015年版も素晴らしかったです。正直、佐藤健さんがここまですごいとは! その演技力とカリスマ性に驚きました。包丁さばきを見ても、すさまじい努力をされて臨んだことがわかりました。そしてお兄さん役の鈴木亮平さん。ドラマが進むにつれ、痩せて痩せて…。病気という設定の役作りだとわかっていても、本当に心配しました。出演者全員が自身を極限に追い込み世界観を作っていた、最高の緊張感がありました。俳優の持つストイックさを引き出し、ドラマ通をも納得させる作品を作り上げるのは、さすがTBSです。

佐藤健さんは作品に絶妙な溶け込み方をする人で、主役も脇役もできる。2018年の「義母と娘のブルース」でも彼に驚かされたんですよ。第1部の竹野内豊さんがあまりにも魅力的だったので、彼がいなくなった後、どうなるかなと思っていたんです。ところが佐藤さんが飄々と登場して見事ドラマを明るくし、綾瀬はるかさんを輝かせたんですよね。あの入り方は本当に難しいですよ。演技を間違えると面白さを失いかねない。佐藤さんの、物語を支えるパワーはすごい。とても理解力がある頭のいい人だと感じます。

個人的な話なのですが、「天皇の料理番」という作品には思い出があるんです。私がMBSでテレビ編成部にいた時代、深夜の再放送枠に流すため、かつての名作セレクトを担当していた先輩が、私にも意見を求めてくださって。そのとき私が挙げたドラマが、1980年版の「天皇の料理番」でした。実際再放送され、深夜にもかかわらず高い数字を取ったんです。嬉しかったですね。だからこそ、2015年にリメイクされると知った時は本当に嬉しかったし、1回目を見て「すごいやんか、これはいける!」と確信しました。好きなドラマが最高の形でリメイクされると胸が熱くなります。宝物が増える感じですね。

■ 池井戸潤原作花盛り! 「下町ロケット」での圧倒的存在感…吉川晃司

 

―この年、視聴率第1位になったのが「下町ロケット」です。

「下町ロケット」が支持を得たのは、町工場が正義で大企業が悪、という図式に見えつつ、「そんな単純なもんじゃない。究極は人だよ」という展開もしっかりと伝えられたところでしょう。大組織の中でも、町工場の技術に尊敬を示し、本当にいいものを作ろうとする技術者がいる。その描き方が秀逸でしたね。〝弱者が大きな権力に立ち向かい勝った〟というストーリーだけだったなら、ここまで共感と感動は生まれなかったと思います。原作の池井戸潤さんは、こういった人間関係を描くのがとても上手な作家さんだと思っています。2013年の大ヒットドラマ「半沢直樹」も、半沢は親の仇の銀行に入り込みますが、潰すのではなくて、その銀行で活躍するわけですから。

「下町ロケット」は、主役の阿部寛さんが素晴らしいのは言わずもがなですが、特筆したいのは吉川晃司さん。彼が登場すると画がガッと締まるんですよ。銀髪、そして逆三角形の体型にスーツが似合い見惚れましたね。立ち姿だけでなく、誠実さと威厳を静かに表現しているのも素晴らしかったです。若い頃のギラギラがちょうどいい具合でそげ落ち、役者としてすごい可能性を感じました。彼のように様々な経験を重ね、魅力につなげている方を見ると勇気をもらえます。男性も女性も歳を取るというのは、味わいを増すことなのだと感じますね。

―確かに吉川晃司さんはカッコよかったですね! 同じく池井戸潤さんの原作「民王」「ようこそ、わが家へ」もヒットしていますが、この2つのドラマはいかがでしたか。

「民王」は遠藤憲一さん、菅田将暉さんのコンビが本当に良かったです。いまや押しも押されもせぬ実力派俳優となった菅田さんですが、私はこの頃のちょっと抜けた感じの役をしている菅田さんがとても好きで。彼の繊細な魅力を生かした「3年A組-今日から皆さんは人質です-」のような役ももちろんいいのですが、また「民王」のようなユーモラスな役もやってほしいですね。このドラマは、政治に興味がなく気の弱い息子と総理大臣の父親の体が入れ替わるという設定を使って、総理大臣や政治家の小難しいイメージがある職務を、かみ砕いて説明するシーンがよくできていました。

そしてもう1本、「ようこそ、わが家へ」は、嵐の相葉雅紀さんが主演。サスペンスタッチのホームドラマでしたが、父親役の寺尾聰さんがシリアスなパートを、相葉さんがホームの温かさを出していました。相葉さんは、いるだけで重い空気や深刻さを和らげてくれるんですよね。ヘビーな展開の後に残りがちな苦さ、つらさという後味を、あの笑顔で薄めてくれる。彼の持つ〝救い〟は誰もが出せるものではないですね。とても貴重です。緩急のバランスがとてもよく、気がつけば毎週チャンネルを合わせ楽しみにしていたドラマでした。

■ ターニングポイントの輝きを武井咲・芳根京子・志尊淳

―2015年は、社会的問題になったパワハラを扱った「エイジハラスメント」もありました。

「エイジハラスメント」の武井咲さんは驚きましたね! このドラマで一気に大女優の風格を感じるようになりました。透き通るような声でセクハラ・パワハラをする上司に向かって「テメェ、五寸釘ぶちこむぞ!」とタンカを切るお約束のシーンは痛快。小泉孝太郎さんが、女性を下に見る課長の役を演じていたのですが、これがまた本当に嫌味でうまかった(笑)。小泉さんはこの年、「下町ロケット」でも粘着質の悪役に挑んでいます。それまで爽やかな役が多かったので衝撃的でしたが、殻を破った感じがありました。

脚本は内館牧子さん。「ここまであからさまにパワハラをする会社があるか?」と思うくらい、露骨なセリフを交えてハラスメントを描いていました。このデフォルメこそ彼女の技ですよね。向き合うべき問題の大きさが痛いほど伝わってくるんです。抗議や批判を跳ね返すことができる内館さんの筆力だからこそ、成り立ったドラマです。今このくらい強気なドラマができるか? と思うくらい。圧倒されましたね。

―この時期、武井咲さんのほかに注目してらっしゃった若手俳優はいらっしゃいますか?

「表参道高校合唱部!」はとても記憶に残っています。芳根京子さん、志尊淳さん、森川葵さん、泉澤祐希さん、高杉真宙さん…。才能の塊のような俳優たちばかりの凄いメンバーでした。みなさん、今ではすっかりテレビドラマの中心を担う実力派になっています。新人発掘はNHK朝ドラから、というイメージがありますが、民放テレビ局からこういう動きが見られるのはいいですね。視聴率を追うだけではなく、未来につながる役者を見出す気合いを感じます。もっとこういったドラマが増えるべきだと思います。「表参道高校合唱部!」はスペシャルドラマが実現してほしいなあ。難しいかもしれませんが、成長したメンバーが全員揃って歌う姿が見たいです。

■ 「デート~恋とはどんなものかしら~」が描く、現代の距離感

―2015年は本当に名作が多いですね。「デート~恋とはどんなものかしら~」も話題になりました。

大好きでしたね! 杏さん演じる理系女子と、長谷川博己さん演じる高等遊民。2人は恋愛や結婚に対して独特の価値観があって、それが互いに理解し合うことで恋が芽生える、というとてもユニークな展開でした。新しい恋愛のパターンを打ち出した面白さがありましたね。ちょっと離れた、ベタベタしない距離感を保つという。世の中の動きを察して、新たな価値観や変わりゆく兆しを描いた名作だと思います。

産婦人科医と妊婦、そして家族を描いた「コウノドリ」も人間の距離感を考えさせられたドラマでしたが、こちらは逆に〝立ち入る〟ほう。「そこまでは関わらなくていい」というところにも入ることで生まれる感動を描いていました。情に厚いサクラ先生を、クールな役柄が多かった綾野剛さんが演じ、親近感溢れるイメージの星野源さんが冷静な医師を演じているのが良かったです。これが逆だとあまりにもウェット過ぎる。こういったキャスティングバランスはとても重要です。

この年にはドラマ「流星ワゴン」もあって、こちらも香川照之さんがグイグイと遠慮なく息子や周りの問題に立ち入ってくるお父さんを演じていて印象的でした。2015年、私が面白いなと思ったのは、「流星ワゴン」然り「コウノドリ」然り、〝誰かがボーダーラインを超えて世話を焼き幸せになる〟という昔からの王道が愛される反面、「デート~恋とはどんなものかしら~」のように、ひとりの生活や楽しみは邪魔しない、個人を尊重した距離感を描いたドラマが共感を得たということです。希薄なんだけれど無ではない。お節介はつらいけど誰かがそばにいてほしい…。これからはもっと、この「人間関係の距離感」をどう描くかが大きなテーマになっていくと思います。

【著者プロフィール】影山貴彦(かげやまたかひこ)同志社女子大学 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」(実業之日本社)、「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。(東京ウォーカー(全国版)・関西ウォーカー)

最終更新:8/6(火) 7:00
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