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ロバート・レッドフォード引退作は、ハリウッドの真の凄味を残した。

8/7(水) 19:01配信

Pen Online

『さらば愛しきアウトロー』 デヴィッド・ロウリー

監督は『ピートと秘密の友達』でレッドフォードと組み、『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』で高い評価を得たデヴィッド・ロウリー。1970年代の映画へのオマージュとして16ミリフィルムで撮影が行われた。こだわりの作品だ。

ロバート・レッドフォードが引退作品に選んだのは、レッドフォードでなければできない役だった。

クラシカルなジェントルマン風の服装で身を包み、颯爽と銀行へ。そして凶器を使うことなく、笑顔ひとつで大金を奪う。そんな銀行強盗だ。しかも、奪われた側はなぜかみんなウットリ。警察の聴取にも、口を揃えて彼のことを紳士的だと褒めそやす。

いくら実話を元にしているとはいえ、そんな無茶な――そう思えてしまいかねない設定だが、レッドフォードが演じると、まったく不自然でなくなる。「確かに、そうなるわなあ」と、違和感なく納得できてしまうのである。

共演者たちも、名うてのベテランが顔を揃える。強盗の仲間にダニー・グローヴァーとトム・ウェイツ。いずれも、いい塩梅に脂の抜けたお爺ちゃんぶりをユーモラスに演じていた。

そして主人公のロマンスの相手にはシシー・スペイセク。どこかくたびれた感のある等身大の中年女性として登場するが、それが恋に目覚めていく中でチャーミングに輝いていく。

誰ひとりとして気張ってないのがいい。だから観ていて心が癒やされる。

派手な展開も、視覚効果もない。といって、深刻で重厚なドラマでもない。物語も演出も役者も、徹底して小粋で軽妙。テンポのいい展開と、その背後に流れるゆったりとした空気に心地よく乗せられているうちに、時間はあっという間に過ぎる。後味に残るのは、穏やかな多幸感だ。それは「古き良き」ハリウッド映画のよう。

最新の技術を駆使した超大作ももちろんなのだが、こうした気の利いた小作品をレジェンドがサラッとつくれてしまうところにこそ、ハリウッドの真の凄味を感じられてならない。文化としての蓄積と成熟、産業としての余裕、その両面が映画界にあって初めて可能になるからだ。

文:春日太一( 映画史研究家)

最終更新:9/3(火) 15:19
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2019年 09月15日号

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