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人工肝臓で脂肪肝の再現に成功、医療への応用に光

8/9(金) 7:11配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

iPS細胞から作成、増え続ける非アルコール性脂肪肝の研究

 見た目は人間の肝臓のようだが、本物より少し小さいその肉の塊は、ヒトの細胞から作られた人工の肝臓だ。実験室で作られたものとしては最も複雑な臓器だという。肝臓と言えば、消化を助け、有害な物質を解毒するなど、多くの重要な役割を担っている。

ギャラリー:次世代の医療、ミニチュア臓器も 写真5点

 研究チームが小さな臓器を作った目的は、病気にするためだ。その結果が、8月6日付けで学術誌「Cell Metabolism」に発表された。

 肥満が増えるにつれて、肝臓に脂肪が蓄積する非アルコール性の脂肪肝が増えている。悪化すれば、肝不全に陥る病気だ。米国だけでも、現在8000万~1億人の患者がいるものの、病気がどのように進行するのかはよくわかっていない。

 様々な病気の研究では、これまで動物が決定的な役割を果たしてきた。だが、動物と人間では、生物学的に異なる部分が当然ある。その壁を乗り越えようと、今回の研究では、ミニ肝臓が果たす大きな役割に焦点を当てている。

「人間の肝臓を人工的に作れれば、組織のゲノムを自由に操作して疾患を再現し、研究できます。これが、これからの医学になると思います」と、論文の筆頭著者で米ピッツバーグ大学医学部のアレハンドロ・ソト・グティエレス氏は述べている。

「肝臓病のモデルを作るために、機能性組織を作成する。それもまさに人間のものとして。とても賢いやり方です」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の肝臓研究者ジョー・セガール氏は話す。なおセガール氏は、この研究には関わっていない。

人工肝臓の作り方

 実験室で人工的に作られた臓器はオルガノイドとも呼ばれ、近年急速に普及している。脳、胃、食道など、どれも大きさ数ミリほどの塊で、本物の臓器よりも小さい。生物学や医学研究に大きな革命をもたらしたが、臓器機能をかなり単純化しているので、できることには限りがある。

 今回はなるべく通常の大きさに近い複雑な臓器を再現しようと、直径5~7.5センチほどのミニ肝臓を作ろうとした。そのためにまず、ヒトの皮膚細胞を採取し、薬で特定の遺伝子の活動を抑えられるよう、ゲノムに微調整を加えた。

 ターゲットにされた遺伝子は、肝臓に脂肪がたまるのを防ぐSIRT1だ。通常の人間の肝臓組織では、この遺伝子の活動を薬で抑えることはできない。

 チームは次に、皮膚細胞を初期化してiPS細胞を作成した。iPS細胞は体のどんな組織にでも成長できる細胞で、肝臓の細胞になるように誘導した。だが、これだけではまだ完全な臓器とはほど遠い。細胞が見慣れた肝臓の形になるには、何らかの構造が必要だった。そこで、ラットの肝臓が使われた。

 過去の研究から、ラットの肝臓を特殊な洗剤で洗浄すると、半透明の肝臓の枠組みだけが残ることがわかっている。これが構造を与えるだけでなく、さらに組織の維持と成長を促すシグナルも出るようになると、米ウェイクフォレスト大学医学部のシェイ・ソーカー氏は言う。

「そこがこの研究の優れている点です。ほかの研究と違って、足場も基質も必要としません」とソーカー氏。同氏はこの研究には関わっていないが、似たような研究を行ったことがある。

 研究者らは、この半透明の構造にiPS細胞から作られた肝臓の細胞を注入し、さらにマクロファージと呼ばれる免疫細胞や組織を助ける線維芽細胞など、人間の肝臓に存在する他の細胞も加えた。すると、3~4日でミニ肝臓が姿を現した。

 最後に、SIRT1の活動を抑える薬を1滴加えると、24時間後には肝臓に脂肪がつき始めた。

「実際に病気になる過程を見ることができました」と、ソト・グティエレス氏は言う。

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