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『羊たちの沈黙』『ハンニバル』の著者トマス・ハリスが、13年ぶりの新作の誕生秘話とハンニバル・レクター博士の復活について語る

8/9(金) 7:00配信

Book Bang

四十年以上インタビューを拒んできた『羊たちの沈黙』『ハンニバル』の巨匠が、ついに口を開く。新たな傑作『カリ・モーラ』誕生秘話、そして怪物ハンニバル・レクター博士の復活について! 

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 小説の世界を賑わせたきわめつきのモンスターの生みの親、トマス・ハリス。いま活躍中の作家たちの中で、彼くらい薄気味の悪い想像力の主はいないと見られたとしても不思議ではない。ハリスの生んだ悪名高き連続殺人犯ハンニバル・レクターは、犠牲者の内臓を念入りに調理したうえでむしゃむしゃ食べてしまう。一度などは生きたままの犠牲者の脳髄をとりだし、その切り身にトリュフをふりかけてからケッパーを添えて賞味したこともある。

 それくらいだから、当のハリスが、いや、自分は決して何か新しいアイデアを生み出したわけではない、と語るのを聞くと、どこか腑に落ちないものを感じる。

「わたしが、何か新奇なものを生み出したなんてことはないね」マイアミの七十九丁目コーズウェイを渡る車中で、ハリスはそう語るのだ。ビスケーン湾を横断するこの道路はバード・キーと呼ばれる小さな島を横目に走っているのだが、この島はハリスの新作『カリ・モーラ』のクライマックス・シーンの舞台でもある。「すべては現実に起きたことなんだ。わたしが考えついたことなど一つもない。いまの世の中、何かをむりにこしらえる必要なんかないんだよ」

 今年七十九歳になるハリスは、小説のプロットや登場人物の誕生の秘密について私がたずねるたびに、そのセリフ、ないし、それを若干言い替えたセリフで応じる。それは、私の予想していたどんな答えよりも奇異に響く。つまり、その答えに従えば、ハリスという作家はことさら猟奇的な想像力の主というわけではなく、ただ単に、人間とその陰惨至極な衝動の観察者にして記録者にすぎない、ということになるのだから。

 過去四十五年近くにわたって、ハリスは一連の不気味な小説で読者を震え上がらせてきた。総売り上げ部数五千万部を超えるそのシリーズは、小説史上忘れがたい悪漢の一人、ダース・ヴェイダーやドラキュラにもひけをとらない悪漢の一人を世に送りだした。が、その生みの親であるハリス本人やその創作のプロセスについては、これまであまり知られていない。それはハリスが、著者サイン会のような、自著のセールス・プロモーションのたぐいを一貫して忌避していることも一因だろう。それにハリスは、一九七〇年代半ば以降、実質的なインタヴューにも一度として応じたことがない。すべては自分の作品に語らしめる、というのが彼の主義だからだ。

 この沈黙は、モンスターの背後にひそむ生みの親に対する大衆の興味をいやがうえにもつのらせてきた。ハリスの十三年ぶりの新作『カリ・モーラ』の最も驚くべき点は、したがって、ハリスがこの新作について喜んで語ろうとしているという事実ではないだろうか。

「人間というやつは、ときに自分をつくり直したくなるんだな」と、ハリスは語る。

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最終更新:8/9(金) 7:00
Book Bang

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