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あの「真ん中の席」を選びたくなるシートが、いよいよ飛行機に搭載される日がやってくる

8/10(土) 14:12配信

WIRED.jp

世の中には「誰にでもわかる真実」がたくさんある。とりわけ常識とされる真実は、飛行機では誰もが「真ん中の席」には座りたがらない、というものだろう。しかし、それが誤りであることを証明した男がいる。コロラド州にある航空機シート製造のスタートアップ、Molon Labeの創業者兼最高経営責任者(CEO)のハンク・スコットだ。

【全画像】「真ん中の席」を選びたくなるシートがいよいよ搭載

彼が設計したシート「S1」は、真ん中の席を左右の席と比べて2インチ(約5cm)低くして、後方に3インチ(約7.6cm)下げている。この互い違いのレイアウトによって、真ん中にある席の幅は最大23インチ(約58.4cm)になった。これは標準の18インチ(約45.7cm)よりゆったりとしている。

だからといって、ビジネスクラスのような快適さにはまだ及ばない。リクライニングシートではないし、この独特な構造によって足元の空間が広がるわけでもない。さらに1列か2列は現実問題として数インチ狭くせざるを得ず、低くなった席は脚の長い乗客にとっては窮屈に感じるかもしれない。

それでもスコットは、幅が広いこのシートを利用したいと考える人が出てくるのではないか、と期待している。「空の旅は本当に大変です。それを少しでもラクにしたいと考えています」と、彼は言う。Molon Labeは商用飛行機でのS1の使用が米連邦航空局(FAA)によって認定されたと2019年6月に発表し、第1号となる顧客企業を獲得したことも明らかにした。

「ひじかけ競争」も解決

航空機業界では新しい製品を導入する際に、FAAの認定が大きなハードルになる。航空機のシートも例外ではない。現代の“玉座”とも言える航空機のシートには、重力の16倍の力を加えても支障をきたさない耐久性が求められるのだ。これは航空機が滑走路から外れるといった事故に遭遇した場合に乗客が生存する可能性を高めることを目指して、FAAが1988年に導入した規定である。

コンピューターモデルを使ったテストと設計の調整に数カ月かけて取り組んだあと、スコットは約15列ぶんのS1をウィチタ州立大学付属の国立航空研究所(NIAR)に19年3月に送った。そして航空機の墜落事故が起きたときの衝撃を再現するために、特別に設計されたそりを用いた実験が実施された。

具体的には、FAAの承認を受けた衝突実験用のダミー人形(平均的な米国男性をモデルにしている)をシートに座らせた。ダミー人形が大きな衝撃を受けて奇妙な姿勢になったとき、シートはびくともしなかった。この実験結果を受けて、FAAは公式に6月に正式にゴーサインを出したというわけだ。

S1が導入されると真ん中の席が広がつだけでなく、ひじかけを巡って隣の席の人と静かに繰り広げられる“覇権争い”にも終止符が打たれそうだ。シートと同様にひじかけの高さも工夫されており、真ん中あたりを境に進行方向側がひじ側より数インチ高くなっているからだ。

こうして段差が生まれ、自然と「境界」が生じる。真ん中の席の乗客が後方の低い部分を使い、両隣の乗客が前方の高い部分を使うといった具合に、すみ分けできるのだ。「これによって『ひじかけ問題』は実質的に解決しますね」と、スコットは言う。

航空会社にとってもいいことがある。このシートは大部分がアルミニウムでできているため、重量は20ポンド(約9kg)に満たない。航空機のシートとしては最も軽量で、レカロのエコノミークラス用シート「SL3510」と同じぐらいだ。重力に逆らう宿命を背負った航空業界にとって、軽量であることは非常に重要と言える。さらにこのシートは列を減らす必要がないため、航空会社は乗客を減らさずに済むとスコットは語る。

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最終更新:8/10(土) 14:12
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