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中国が「第二の天安門」化を本気で警戒する香港騒乱

8/10(土) 6:00配信

JBpress

 香港では、6月に始まった反政府デモが沈静化するどころか、ますます激しさを増している。

香港の宇宙科学館「香港太空館」で行われたデモで、レーザー光を投射する参加者ら(2019年8月7日撮影)

 8月5日にはゼネストが呼びかけられ、空の便が多数欠航したり、地下鉄の運行がデモ隊に阻まれたりして公共交通機関に大きな乱れが生じた。また、香港~広州間の直通列車も運休になった。

 このような騒乱状態を前にして、林鄭月娥(Carrie Lam)香港行政長官は暴力行為を止めるように訴えているが、事態は一向に改善しない。

■ 揺らぐ「一国二制度」

 日本では、反政府デモが暴徒化して危険なので、夏休みの香港旅行は取り止めようといった程度の反応しかないが、実は、この香港情勢への対応が中国の今後を決める重要な事態であることを認識すべきである。それは、台湾の将来にも関わるし、世界システムの変遷という観点からパックス・シニカ(中国の天下)が実現するかどうかにも決定的な意味を持つ。

 香港では、2月13日に、中国本土への容疑者の引き渡しを可能にしようとする「逃亡犯条例改正案」が公表され、これに反対する市民の声が高まっていった。5月21日には、中国政府が改正案を支持することを表明した。

 これに危機感を持った市民が街頭に出た。それは、条例規制改正案が成立すると、中国に批判的な言動をする言論人らに嫌疑がかけられ、中国政府に引き渡される危険性があるからである。

 デモは、最初は6月9日に行われたが、103万人が参加している。12日にも、数万人が香港政府や立法会周辺に集まり、警官隊と衝突したため、15日には行政長官は、立法会での法案審議の無期限延期を表明した。

 しかし、あくまでも条例改正案の撤回を求める市民は、6月16日、200万人のデモを行い、林鄭月娥長官の辞任を声高に要求した。それは、彼女が「改正案は死んだ」とは発言したものの、正式な撤回は表明していないからである。彼女は、改正案を支持する北京政府とそれに反対する香港市民の板挟みにあって、身動きがとれない状況になっている。

 香港は、アヘン戦争に敗れた清国からイギリスに割譲されたが、99年間の租借が終わった1997年7月1日に中国に返還された。当時のサッチャー首相と鄧小平との間で決めた返還条件は、「港人治港」、「一国二制度」を50年間続けることだった。「高度の自治」を香港に認めた上で、特別行政区として中国の社会主義体制とは異なる制度を保証したのである。

■ 「改革開放路線で民主化」と思われた中国

 イギリスは、改革開放を進める鄧小平の路線が進み経済発展すれば中国は必ず民主化すると確信していた。22年前の返還時に香港を取材した私も、国際政治学者として同じ予想を立てていた。50年間もあれば、中国は共産党一党支配に終止符を打ち、複数政党が自由に競争する多元的民主主義国になると踏んでいたのである。

 ところが、現実は、それとは逆に動いてしまっている。中国政府は、香港の中国化、つまり自由を剥奪する方向で様々な手段を講じてきた。たとえば、立法会は、半数は普通選挙で選ばれるものの、残り半数は職能代表が占めており、親中派が多数を占める仕組みだ。行政長官は、間接選挙であり、親中派が推薦することになっている。

 この民主化の後退に対して、香港市民は抗議を続けてきたのである。2003年には、50万人がデモに参加し、反体制派を取り締まる国家安全法を廃案に追い込んだ。2014年には、「雨傘運動」と呼ばれるデモが起こったが、これは、行政長官選挙の完全民主化を求める運動であった。しかし、79日間にわたって道路を占拠し、市民の日常生活を攪乱したために批判され、失敗に終わっている。

 今回のデモは、雨傘運動の再来とも言われるが、一向に収束せず、警官隊との激しい攻防が行われている。中国政府は危機感を抱き、武力介入も辞さない姿勢を繰り返し示している。

 とくに、30年前の1989年6月4日は天安門事件の起こった日であり、中国政府は今回の香港情勢が「第二の天安門事件」となることを危惧している。それだけに、習近平政権は海外からの反応に神経質になっており、できるだけ目立たないようにしているのだ。もし、人民解放軍が投入されれば、間違いなく天安門事件の再来となる。

 折しも、7月22日、天安門事件を弾圧した李鵬元首相が死去した。29日には、葬儀が北京で行われたが、習近平や江沢民も参加した。香港の反政府デモを念頭に、抗議活動を封じ込めるため、葬儀当日、当局は厳戒態勢で臨んだ。香港が第二の天安門事件の引き金になることを警戒しているのである。

 ところで、一国二制度が一国一制度になるということは、香港民主派にとっては、中国が民主化し民主主義に一元化されることを意味する。しかし、強権化を進める習近平政権の下ではそれは無理である。一方、習近平にとっては、共産党一党支配下の制度に組み込むことを意味する。つまり、ベクトルは全く逆の方向を示しており、両者の調整は難しい。

 ここで台湾に目を転じると、総統も議会も民主的な普通選挙で選ばれている。秦の始皇帝以来、「皇帝」が選挙で選出されるという歴史的快挙を台湾の人々は実現したのである。中国では、毛沢東から習近平まで、従来の「皇帝」選びと同じである。台湾は、今や欧米や日本などと同じ多元的民主主義を実践しているのである。

 台湾の人々は、香港を見て、一国二制度の約束が簡単に空手形になることを再認識させられている。それは、来年1月の総統選挙にも影響を与える。現在の蔡英文民進党政権は独立志向であるため、その分、再選への環境が整うと言われている。「香港を支え、台湾を守ろう」という声が台湾で高まっており、中国寄りの国民党が不利になる可能性があるからである。

 香港は、いわば中国と台湾の中間にあると言ってよい。反政府デモを展開する民主派の市民は台湾型への移行を望んでおり、北京政府はそれを絶対に阻止しようとしている。両者には妥協点は見いだせない。

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最終更新:8/10(土) 6:00
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