ここから本文です

「いだてん」の予算を回してあげたい……「やすらぎの刻~道」を辛口コラムニストが絶賛

8/10(土) 11:31配信

デイリー新潮

 コラムニストの林操氏に今夏のドラマについて語ってもらおうと依頼したところ、語るべきドラマはない、と。しかし、4月から放送中の「やすらぎの刻~道」は別格だという。

 前作「やすらぎの郷」(2017年4月~9月放送)に比べて話題性は落ちたが、高評価の理由を聞いた。

 ***

アナ 令和元年度も第3四半期の連続ドラマがスタートして前半の流れが見えてきました。非国民生活センターTV主席研究員の林操さんに7~9月期の連ドラについてうかがいます。

林 お断りします! 

アナ え? 

林 いや、今期の連ドラについちゃ語れることなんてロクにないのよ。

アナ ああ、そういうことでしたか。確かに視聴率や評価などを見ると飛び抜けた作品は出ていないようですが……。

林 飛び抜ける・飛び抜けない以前に、まず作品と呼べるようなドラマが見あたらないんだよ、ロクに。さらに数字もよくないとなりゃ、商品と呼べるようなドラマさえ少ないわけで、何か語れと言われたところで、これまでさんざん繰り返してきた悪口以外にワタシが語れることも極少なのよ。

アナ では、対象を「プライムタイム(夜7~11時)の民放の連ドラ」以外に拡げたら、どうでしょう? 

林 変わらないなぁ。深夜ドラマにせよNHKのドラマにせよBSのドラマにせよ、人様に公然とお薦めしたいような物件には出くわしてません。

アナ 困りましたね、7~9月期はドラマについて語れることはない、と……。

林 あ! いや、あった、あったわ、語れるドラマが! 

アナ おお! ありましたか。何ですか? 

林 倉本聰の「やすらぎの刻」! 

アナ なるほど。テレビ朝日系の昼の帯ドラマ「やすらぎの刻~道」(月~金・12時30分~)ですね。今年4月にスタートして4クール=1年間にわたって放送するという。

林 そう。あれあれ。

アナ 2年前に2クール続けて放送された「やすらぎの郷」の続編です。「郷」の方は林さん、各所で絶賛されていましたが、今回の「刻」はいかがですか? 前作に引き続き、往年のスターが勢揃いしている割には、「郷」のときほど話題になっていないような印象もありますが。

林 そうねぇ、「郷」の場合、豪華な顔ぶれやギョーカイ批判のキツい内容はもちろん、そういうドラマが放送されることからして騒がれたけれど、その続編となると、放送されること自体の驚きは減るからねぇ。そこは倉本聰もわかってて、「郷」の後日談だけじゃなく、主役で脚本家役の石坂浩二が書き進めるドラマまで劇中劇としてプラスするなんて手の込んだことをやってくれてます。

アナ その劇中劇のタイトルが「道」なんですよね。こちらも若手の清野菜名さんや風間俊介さんなどキャスティングが充実しています。戦前に始まる山梨県の田舎の若者たちの物語で、最近は日本が太平洋戦争で劣勢に転じるあたりまで話が進んできました。

林 そうそう。戦争がらみの昔話が挿入されるって話を最初に聞いたときは正直、さすがの倉本でも世代(御年84)やら政治的立ち位置やら最近の政治の状況やらからして、安易・安直な反安倍臭が嗅いでとれるような物語に仕立ててたりしたらもったいないなぁと、ちょと危惧もしたんだけれど、放送が始まってみて一安心。

アナ 政治色が濃いということはなく、でも、戦前・戦中の理不尽を描くことには躊躇がない具合で、「さすがの倉本」さんだと思います。

林 まっとうな大日本帝国批判がきちんと盛り込まれているあたり、「こんな真似はもう、NHKの朝ドラじゃできないだろ!」という倉本の意気さえ感じられるよね。風間の兄貴が徴兵を忌避して山窩の世界に逃げ込んだらしいとなったとき、追跡することになったのが兄貴の山の師匠の「山おじ」で、風間たちから兄貴を見逃してくれるよう頼まれた彼が断るシーンなんて、ホント「さすがの倉本」だった。

アナ 「仕方あるまい。時代に逆らったんじゃ」「ワシゃニッポン人だ」「御国に逆らうことはワシにはできん」「ワシは古い人間だ。あいつが国に逆らう姿を見過ごすわけにはいかん」……。

林 そういう言葉を、焼いた熊の肉を噛み締めながら野太い声で発する「山おじ」がまた、あの暗黒舞踏の、あの麿赤兒なんだから、効きますわ。セリフにせよ役者にせよ、平和ボケの甘ったるさも愛国中毒の薄っぺらさも微塵もない。

アナ 確かに。それが劇中劇である「道」パートへの林さん評だとすると、「やすらぎの郷」の続きとなる「刻」パートの方はいかがですか。

林 相変わらずおかしいよね。TVの高度成長に貢献した者のみが招かれて入居できる老人ホームっていう舞台設定や、入居者役を演じるのが現実世界でホントにTVのスターだった爺様&婆様という配役がやっぱり傑作。これが引き続き、現在ただいまのTVの斜陽、ニッポンの斜陽に対するキツい批評なってるのは「郷」のときと同様だけれど、今回は最近になってジャニーズに公取とか吉本に税金とかいった騒ぎが起きてるのが、いいスパイスになってます。

アナ 本当に、倉本さんのツッコミの正当性、あるいは正統性がいっそう際立っていますもんね。芸能界という狭い世界が描かれているはずなのに、もっと大きな日本という国が見えてくるドラマです。

林 いいこと言うなぁ。ゲーノー会からニッポンが見えるという具合に空間を拡げてみせるのが「刻」パートなら、戦前に始まる過去から現在ただいまが見えるという具合に時間を拡げてみせるのが「道」パートなのかもね。

アナ なるほど。思い出してみれば「郷」のときも、老人ホームを作った芸能界の大立者が戦中は官軍の若手参謀だったという設定があったりして、過去から現在を照らす仕掛けが盛り込まれていましたね。

林 いいこと言うなぁ。綺麗にまとまったから、このインタビュー、もうこれで終わりにしようか。

アナ いやいや、もう一点。さきほどもちょっと触れたように、今回の「刻」は前回の「郷」と比べると、いまひとつ騒がれていないようで、たとえば視聴率の話もあまり聞きません。そのあたり、いかがですか。

林 「郷」は初回が8.7%で、全129話の平均でも5.8%と、平日昼の帯としちゃなかなかの数字を獲ったんだけれど、「刻」はそこまではいってないのかなぁ。あの時間帯の視聴率はビデオリサーチが公表しなくてTV局側が都合のいいときにチラチラ漏らす程度。今回これまでのところ「刻」の数字が見当たらないのは、テレ朝が表に出したくないからじゃないかと、邪推しちゃう。

アナ 7月には、テコ入れと思われるような企画が流れた週もありました。

林 梅宮辰夫が石坂の亡父役で登場して、石坂との掛け合いで4月からの振り返り総集編をやった週ね。長丁場の帯ドラだから、途中から乗り込んでくる客も取り込もうとするのはおかしなことじゃないとして、あのパートがまた濃かった。死んだ親父の幽霊が出てくるなんて、まるで「ハムレット」だわ、そもそも、癌との闘病が続いてきた梅宮に幽霊役ってキャスティングも、演る側にせよ演らせる側にせよ、肚が座ってるわ。

アナ その梅宮さんが「あっち(霊界)じゃ『ポツンと一軒家』が大人気」なんて時事ネタを口にするお茶目なシーンもありました。

林 大倉本聰がテレ朝におべっか使ったとは思わないけど、まだ数字はさほどでもない「刻」を打ち切らずに1年放送するテレ朝に謝意を表すためのセリフではあるかもね。そのセリフの前には、石坂が脚本の「道」がドラマ化されて85%の視聴率を獲ってるなんて景気づけみたいなギャグも盛り込まれてたし。

アナ 前作の「郷」に続き、林さんから悪口が出てこないので気味が悪いくらいです。「やすらぎ」シリーズ、本当にお好きなんですねぇ。

林 いや、画面上のアラは多くてツッコミどころ満載なんだけれど、それは大半が低予算の制約によるもの。放送される時間帯を考えれば仕方のないことで、悪口言ってる暇があったら、こういうドラマがまだ放送されてる僥倖を味わっていたいのよ。ケナす気にならないドラマって、ホントに稀少になっちゃったから。今期の大河の「いだてん」もそっち系の作品ではあるけれど、見るたびに、あの無駄なくらい潤沢な予算、しかも放送血税由来の経費を少しでもいいから「やすらぎの刻」に回してくれないかなぁと思っちゃうよ。それを看板政策に押し立ててワタシも選挙に出ようかなぁ、元祖「NHKから非国民を守る党」党首として。

アナ 政見放送くらいはぜひ、上品にお願いします。

林操(はやし・みさお)
コラムニスト。1999~2009年に「新潮45」で、2000年から「週刊新潮」で、テレビ評「見ずにすませるワイドショー」を連載。テレビの凋落や芸能界の実態についての認知度上昇により使命は果たしたとしてセミリタイア中。

週刊新潮WEB取材班

2019年8月10日 掲載

新潮社

最終更新:8/10(土) 15:26
デイリー新潮

記事提供社からのご案内(外部サイト)

デイリー新潮

新潮社

「週刊新潮」毎週木曜日発売

「デイリー新潮」は総合週刊誌「週刊新潮」が発信する最新の話題に加え、専任取材班による綿密な取材に裏打ちされた記事を配信するニュースサイトです。

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事