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大伴旅人から諭吉、太宰、三船…世に愛すべき酔っ払いの話は尽きまじ

8/11(日) 11:00配信

Book Bang

 荒れた酒席にはいくつも出たことがある。ただし私の場合は常に介抱するほうだ。正月に泥酔した伯父たちから逃げ回ったのが最初の記憶で、仲間を担いで帰宅した大学時代、パワハラセクハラ当たり前のOL時代、銀座のクラブで有名作家がゲル状態で横たわる作家秘書時代、とさまざまな酔態を見てきた。

 しかしそんなのは生ぬるいものだったのだ。今なら間違いなく犯罪者になるような、日本の超酔っ払いを27人も集め、その体たらくを調べ上げた著者の執念はすごい。

「酔人研究家」の肩書を持つ著者だが、本人も酒でかなりの醜態を晒してきた人らしい。頻繁に二日酔いでふらふらになって出社し、トイレに籠城することから、付いたあだ名が「あさま山荘」。センスのいい同僚がいる会社である。

 取り上げたのは、「令和」の出典である万葉集「梅花の歌」に登場する歌人、大伴旅人や平安時代の藤原氏大繁栄の礎を築いた藤原冬嗣から、福沢諭吉や米内光政などの近現代の政治家や思想家に太宰治、横溝正史など作家、スポーツ選手では力道山や藤原敏男、女性は平塚らいてうと原節子と百花繚乱である。

 例えば「男は黙ってサッポロビール」というCMが大ヒットした三船敏郎は、とんでもない酒乱だったらしい。

 ウィスキーのふたを開けると呑みきらなければ満足できず、酒量が一定のラインを越えると怒鳴り散らし、大暴れ。殺陣の練習をすると称して庭で真剣を振り回していたというから恐ろしい。

 大日本帝国憲法公布時の首相である黒田清隆は泥酔しての帰宅時、出迎えが遅い、と妻を斬殺したと言われている。酔っ払いには近づかないのが一番だ。

 大きな失敗をしても「酒の上のことよ」と許されたおおらかな時代はもう戻ってこない。酒は飲んでも飲まれるな。とはいえ、世に愛すべきヨッパライ話の種は尽きまじ。

[レビュアー]東えりか(書評家・HONZ副代表)
千葉県生まれ。書評家。「小説すばる」「週刊新潮」「ミステリマガジン」「読売新聞」ほか各メディアで書評を担当。また、小説以外の優れた書籍を紹介するウェブサイト「HONZ」の副代表を務めている。

新潮社 週刊新潮 2019年8月8日号 掲載

新潮社

最終更新:8/11(日) 11:00
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