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ドラマ界でブーム到来! でも実態はお粗末な日本の「法医学」

8/12(月) 7:01配信

FRIDAY

夏ドラマに「法医学」が2本も

今、ドラマ界では「法医学」のブームが来ている。

鮮烈な印象を残したのは2018年1月から放映されたドラマ『アンナチュラル』(TBS)だ。石原さとみ演じる法医解剖医の信念は、「法医学は未来のためのもの」。毎回さまざまな「死」を扱いながら、その裏側にある謎や事件を解明していく姿が共感と話題を呼び、“最も質の高いドラマ”に贈られる「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」など、多数の賞を獲得した。

そして今期放映中のドラマは、『監察医 朝顔』(月9/フジ)と『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』(木9/テレ朝)の2本。朝顔の主人公は大学の法医学教室に勤務する新米法医学者。「死因を明らかにすることは、その人の“生きた証”を見つけることにつながる」との思いから、誰よりも真剣に遺体と向き合う。一方サインは、「死体の声に耳を傾け、死因をめぐる不都合な真実を隠蔽しようとする権力に立ち向かう」ベテラン法医学者が主役だ。

注目を集める法医学。しかし、実際の日本の法医学の現場には課題がまだまだ山積しているという。「死因究明後進国」とも言われる、日本のお粗末な実態を見ていこう。

◆日本に法医はたった140人

「不審死として警察に届け出のある死者は年間17万人以上いますが、そのうち解剖されるのは2万人以下。15万人以上は死因が曖昧なまま葬られています。犯罪が見逃されるのは当たり前の状況です」と憤るのは千葉大学大学院教授で解剖医の岩瀬博太郎氏だ。

解剖率が高いスウェーデンでは約89%、オーストラリアが約54%、英国が約46%であるのに対して、日本では全国平均でたった11%。薬毒物検査に至っては、どこの国でも異状死体が出た場合には数百~数千種類の薬物をスクリーニングするが、日本には薬毒物専門の検査拠点すらないのが現状だ。

日本の警察は優秀と言われているが、高い検挙率の一方で、発覚していない殺人事件がとんでもない数あるとしたら、相当怖いのではないだろうか。

一例として、暴行問題が度々取り上げられる相撲界の事例を紹介しよう。

岩瀬氏の著書『死体は今日も泣いている』(光文社新書)には、次のようなショッキングなデータが掲載されている。このデータは2007年6月に起きた「時津風部屋力士暴行死事件」の後で相撲協会が出したもので、『週刊朝日』(2007年10月9日号)に掲載された。

●1985年から2007年の現役力士の死亡例一覧表
 
1985年10月 26歳 白血病

1986年9月 24歳 悪性骨腫瘍による腎不全

1987年4月 26歳 うっ血性心筋症

1987年6月 22歳 肺がん

1988年10月 16歳 自殺

1989年10月 18歳 急性白血病、くも膜下出血

1990年2月 22歳 虚血性心不全

1990年7月 19歳 急性心不全

1992年2月 18歳 心不全

1992年3月 24歳 肥大型心筋症による急性心不全

1992年7月14日 15歳 心筋梗塞

1996年10月 25歳 心不全

1998年3月 30歳 肺出血

2003年7月 15歳 拡張性心筋症

2004年8月 17歳 多臓器不全

2004年10月 32歳 虚血性心不全

2007年6月26日 17歳 急性心不全⇒多発外傷による外傷性ショック死(時津風部屋力士暴行死事件)

この表を見せられた岩瀬氏はまず、病死とは異なる死に方をしたのが明らかな遺体であるにもかかわらず、解剖されたケースが’07年の力士暴行死事件の被害者を除いて1件もないことに驚いたという。

「なかには明らかな病死と思われるものもありますが、この若さで、しかも身体頑健な若者たちであるはずなのに、心不全が異様に多いのです。心不全は解剖しなければ、本当の死因はわかりません。また肥大型心筋症や拡張型心筋症の人が現役力士をしていたのだとすれば、それはそれで、健康診断をちゃんとしていたのかという問題があります。相撲のような激しい運動を、心臓疾患のある人にさせてはいけないのです」(『死体は今日も泣いている』より抜粋)

暴行によるアザは、直後には目立たず、時間が経つにつれて目立ってくるという。「そのため、最初に検死した医師は気づかなかったのかもしれない」と岩瀬氏は話すが、真相は不明だ。

普通の医師は、病気やケガを治療して治すことが仕事であり、患者が「なぜ、そんな状態になったか」を診断する専門家ではない。死因やケガの原因を明らかにするのは法医の仕事なのだが、現在日本には、それが行える法医は全国にたった140人しかないのだ。

◆日本は犯罪隠ぺい大国?

2014年、岩瀬氏らは同大の法医学教育研究センター内に、ご遺体ではなく、生きている人間を扱う「臨床法医学」部門を立ち上げた。

「子どもや高齢者の虐待事件、交通事故や傷害事件での訴訟など、生きている人のケガがなぜ、どのような状況で起きたかを明らかにすることが求められる事態は今後増えていくでしょう。その場合、臨床医は“患者のため”になろうとする習性があるので、加害者にされる相手のことは考えず、自分の患者さんの訴えだけを聞いて診断してしまいがちです。裁判で問題になるようなケガの原因の究明は、 公平公正な鑑定を行う法医がやるべきです。」

さらに、相撲界以外にも、武闘やスポーツなどで、いまだに暴力体質がはびこっている分野もありそうだ。相撲界は貴乃花氏の騒動によってたまたま問題が明るみになっただけで、表ざたになっていないしごきや暴行死もあるのではないだろうか。

「ありうる話だと思います。私も時折、いい加減な診断を目にすることがあります。力士の死亡例一覧の中にも、『多臓器不全』というのがありますが、転倒・転落から重症の頭部外傷を受傷したことがきっかけで、 数週間かけて肺炎などを合併して死亡した場合でも、 単なる多臓器不全で病死としてしまう医師がいます。 法医学的には転倒・ 転落が原因である以上、病死としてはならないのですが。

角界に限らず、ちゃんと解剖して診断しないと、死因に疑惑の目が向けられることも少なくありません。実際、柔道の授業や、スキューバダイビング講習などでの死亡事故で、多くの若い方がなくなっていて、あとで揉めることがあるようです。持病もなく健康なはずの若者の死が、病死と判断されるケースは少なからずあるのです。責任の明確化のためには、少なくとも若者だけでも、しっかり解剖すべきです」

気になって調べてみたところ、1999年から2008年の10年間で、学校の管理下(幼稚園から高校まで)における突然死(急性心不全等が直接死因と判断された病死)は年間35~83件で推移しており、死亡全体のおよそ57%を占めていた。

なかでも高校生男子は死亡例の79%が突然死しており、しかもそのうちの66%が「運動中・運動後」に亡くなっている。(以上、独立行政法人 日本スポーツ振興センター調査)

「病死に見えて事故死、自殺に見せかけた他殺、危険ドラックや過労が原因の死など、犯罪性が疑われる多くのご遺体が、日本では解剖されることなく荼毘にふされている。日本は犯罪隠ぺい大国なのかもしれません」(岩瀬氏)

日本の法医学を巡る問題は、ドラマ以上に根深いのかもしれない。

岩瀬博太郎(いわせ・ひろたろう)/千葉大学附属法医学教育研究センター センター長 大学院教授。東京大学医学部卒業、同大学法医学教室を経て、2003年より現職。14年より、東京大学法医学講座教授も兼務

取材・文:木原洋美

FRIDAYデジタル

最終更新:8/12(月) 7:01
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