ここから本文です

夜勤の発がん性リスクは個人の問題? 危険な除草剤と同レベル

8/12(月) 12:32配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

 私が医学部を卒業して研修医になったのは1987年、今から30年以上も前のことである。その当時は「働き方改革」などというありがたい話も無く、新入医局員は月の1/3から半分も当直に入らねばならないなど、かなり過酷な労働環境に置かれていた。特に年末年始がひどい。多くの病院が休日体制に入る12月28日の夜から始まり、年明けの1月4日の朝までまるまる1週間続けて当直をしながら数カ所の病院を渡り歩いたのを覚えている。

赤身肉やコーヒーなど、その他の発がん性のリスクは?(IARC)

 年末年始の当直業務も大変だったのだが、食事の楽しみが無いのが若い身にはとても辛かった。当直医には患者さんと同じ病院食が出るが(加えてデザートなど1品程度おまけがつく)、3食すべて病院食で年を越すのはあまりにも侘しい。それに量が足りない。「病院近くのコンビニでも買い出しに行けばいいのに」という声が聞こえてきそうだが、その当時はコンビニなるものがほとんど無かった。当然ながら、24時間営業のスーパーや飲食店もなく、要するに深夜に食事にありつく術がなかったのである。

 私が働いていた秋田市にコンビニが初めて登場したのは1990年頃からで、夜勤者が大量に詰めている大学病院前にできたコンビニが大盛況となったのは当然である。その後、各種フランチャイズのコンビニ、24時間営業のスーパー、牛丼やハンバーガーなどの外食店が雨後の筍(たけのこ)のごとく登場し、当直医の食環境は見違えるほど改善した(労働環境は相変わらずだが)。

 前置きが長くなったが、夜勤者が夜勤者に支えられる構図に私自身もどっぷりと浸かっていたことをお示ししたかった。医療、電力やガス、公共交通機関などの社会インフラの維持だけではなく、生活の利便性を高めるために深夜サービスを提供するようになり、夜勤者は増加の一途をたどっている。

労災を認定して金銭的補償を行った国も

 厚生労働省が5年ごとに実施している労働安全衛生特別調査によれば、深夜業に従事している労働者割合は平成9年の13.3%から平成24年の21.8%(1200万人)まで一貫して増加している。平成29年度調査では深夜業従事者数のデータが得られなかったが、増加かせいぜい横ばいなのではないか。ちなみに、深夜勤とは午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては午後11時から午前6時まで)の間における労働のことを指している。

「夜勤の心得 ―時計はそのまま、眠気に対処―」でも触れたが、夜勤がさまざまな疾患リスクを上昇させることはよく知られている。睡眠障害、狭心症や心筋梗塞などの循環器疾患、うつ病、肥満や糖尿病などの代謝障害、消化器障害など多数あるが、なんと言っても最近の話題は「がん」である。

 夜勤が、幾つかのがんの罹患リスクを高めることが疫学調査で繰り返し報告されている。例えば、夜勤に従事する女性では非従事者に比較して、乳がんの発症リスクが約1.5倍になる。そのため、2007年には、WHOの関連機関である国際がん研究機関(IARC)が「サーカディアンリズム(概日リズム)を乱す交代勤務 shift work」を発がん性リスクが2番目に高いグループ(2A:ヒトに対しておそらく発がん性がある暴露状況)に認定している。交代勤務とは夜勤と日勤を繰り返すなど業務時間帯をシフトさせながら働く勤務形態のことで、結果的に体内時計(概日リズム)と睡眠時間帯の間にズレ(内的脱同調と呼ぶ)が生じ、これががんを含めた心身の異常の原因になるとされている。

 この発表の影響は大きく、その後、デンマークでは「20年以上、週に1回以上夜勤に従事」し、その後に乳がんを発症した看護師に対して国が労災認定する形で金銭的補償を行っている。高負担高福祉国らしい施策だが、これに追随する(勇気のある)国は現れていない。

 ちなみに、 世界でもっとも売れている除草剤「グリホサート」もグループ2Aに分類され、EUでは発売禁止に向けて動きが出ているほか、米国ではグリホサートによってがんを発病したとする訴訟が頻発し、昨年来巨額の賠償金支払いを命じる判決が続いているという。

1/2ページ

記事提供社からのご案内(外部サイト)

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事