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赤ん坊を食いちぎる鬼女! 北斎の描く”妖怪”があまりにもリアルで怖すぎる

8/12(月) 17:00配信

文春オンライン

 エアコンや冷たい食べものじゃ、この暑さは抑えきれるものじゃない。ならば一縷の望みを託して、古来の納涼法たる「怖いもの」に触れる方法を試みよう。

【写真】北斎のリアルな怖い浮世絵たち

 妖怪や幽霊の類のことだが、あまりにドロドロと湿った内容ではむしろ暑苦しい。ここはカラリと驚きや畏れを感じられ、どこか可笑しみの情も湧くものがいい。

 となれば、この人の絵を眺めるのがいちばん。江戸時代に盛んとなった浮世絵界の大御所、葛飾北斎である。

赤ん坊を食いちぎる、恐るべき般若の姿

 代表作《神奈川沖浪裏》が次代の1000円札図柄に採用されることとなった北斎は、まずは「富嶽三十六景」や「諸国滝廻り」といった日本各地の風景を描いたシリーズで知られる。だが、抜群の絵画技量を持つこの絵師が描き出せるのは、それだけじゃない。人物画でも物語の一場面でも、森羅万象を描き出すことができた。88歳までの長い生涯に残した膨大な作品群を見るにつけ、古今東西で最も絵がうまい人物のひとりと思われる。

 北斎の手にかかれば、この世のものではない妖怪や幽霊だって、生き生きと画面の中に実在することとなる。彼が残した傑作妖怪錦絵シリーズに、「百物語」がある。そのうちの一作《笑ひはんにや》は、窓から顔を覗かせた鬼女が、画面いっぱいに描かれている。ツノを生やしてニタリと笑う表情がなんとも不気味だ。

 さらにヒヤリとするのは、彼女の右手に目をやったとき。しっかと握られているのは、胴体からもぎ取られた赤ん坊の生首である。血で赤く染まった首筋が生々しい。赤色を追うようにして画面内に目をさ迷わせば、女の口元へと行き着いた。どうやら赤ん坊の首を食いちぎったばかりのよう……。

バケモノが身近に感じられて怖い!

 北斎が生きた江戸時代の後期には、幽霊・妖怪の登場する歌舞伎や芝居の演目、読みものが流行した。いまに伝わるストーリーも多数で、それらを北斎は錦絵にして残している。

《お岩さん》もそうした作品のひとつ。「東海道四谷怪談」に登場するお岩は、夫に毒を盛られて殺された恨みつらみを訴えるため、亡霊になって現れる。提灯にお岩の霊が乗り移った場面を描いているのだけれど、北斎はここでオリジナリティを発揮。提灯とお岩の顔を一体化させて、新種の提灯のお化けのような存在を生み出している。

《さらやしき》は、18世紀に成立した浄瑠璃の演目「播州皿屋敷」に題材をとった。主人が大切にしていた皿を割ってしまったお菊は、ミスを責められそのまま殺されてしまう。そのあと夜な夜な、井戸の底から皿を数える恨めしそうな声が……。北斎は井戸から出てきたお菊の姿を描くものの、様子がどうもおかしい。なぜかろくろ首のような長い首をしている。よく見ればその首は、皿が幾枚も連なってできているのだった。

 怖いことは怖い。でも同時にユーモラスでもあるのが、北斎「百物語」の特質である。圧倒的な技量を持っていた北斎は、ものをありのまま写して、真の姿を暴き出すことに執着した。はっきり目に見えるものはもとより、見えないものもありありと表そうとしている。それで妖怪・幽霊の類も、きわめてリアルに感じられる描写となっているのだ。

 般若やお岩さんやお菊がごく身近に感じられてしまう、それが北斎の描くちょっとユーモラスなお化けたちの「怖さ」の源なのだろう。

山内 宏泰

最終更新:8/12(月) 21:30
文春オンライン

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