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無力さに泣いたあの日から――真夏の彗星、伊藤裕季也/FOR REAL - in progress -

8/13(火) 10:59配信

週刊ベースボールONLINE

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。

【画像】大学時代の伊藤裕季也 豪快なフルスイング見せる強打の右スラッガー

 眉間に小さな切り傷のある若者が、朱色のバットをぶん回す。

 空中に大きな弧を描くフォロースルー。振りきられたバットの先が打席の土をえぐった数秒後、弾き出された白球は横浜スタジアム左翼席の人山に消えた。

 8月10日のドラゴンズ戦、ルーキーからヒーローへの早変わりはマンガみたいに鮮やかだった。

 1点差に迫るプロ初ホームランから打順は一巡、伊藤裕季也の第4打席は8回裏にやってくる。2点ビハインドで走者一塁。いつだって、主人公のために舞台は用意される。

 勝ちをつかみにかかるドラゴンズは、J.ロドリゲスをマウンドに送り込んでいた。ドミニカ生まれの左腕が前打者のJ.ロペスに投じた3球はいずれも155kmオーバー。初見で打ち崩すのは至難の業だ。

「両方追っかけても絶対打てない。チェンジアップが来たら“ごめんなさい”で。あの球(速球)しか、打つ球はない」

 スナイパーのごとく照準は一点に絞られていた。待ち構えていたからこそ、白い影となって迫りくる151kmのストレートを逃さなかった。

 前の打席のリプレイを見ているかのように打球はレフトスタンドに飛び込んで、打った本人は何食わぬ顔でダイヤモンドを一周した後、太い腰をどすんとベンチに落ち着けた。

 終始劣勢のゲームを振り出しに戻す同点弾。勢いを得たベイスターズは9回裏、満塁のチャンスから乙坂智の犠牲フライでサヨナラ勝ち。土俵際から仕切り線まで押し戻し、そのまま電車道で寄り切った。

「こんなもんか」と思われたくない。

 8月8日の初出場・初打席に始まり、翌9日は初安打を含む2本のツーベース、そして初スタメンを勝ち取った10日は初本塁打を含む2打席連続アーチ。ともすれば年単位の時間がかかってもおかしくない初づくしの階段を、一軍昇格からわずか3日のうちに駆け上がってきた。

 控えめな笑みを浮かべながら、伊藤裕は言う。

「自分が思い描いてたよりいい結果が出て、自分でもちょっとびっくりしてるぐらいです」

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最終更新:8/13(火) 11:28
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