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対談後編:結城康平×らいかーると 「ポジショナルプレーVS和式」論争

8/13(火) 20:49配信

footballista

『欧州サッカーの新解釈。ポジショナルプレーのすべて』発売記念企画#3

7月27日に発売された『欧州サッカーの新解釈。ポジショナルプレーのすべて』は、名将ペップ・グアルディオラによって言語化されたことを契機に世界中へと広がり一大トレンドとなった「ポジショナルプレー」を軸に、WEB発の新世代ライター・結城康平が現代フットボール理論を読み解いていく一冊だ。

今回は、5月に発売した『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)が大きな反響を呼んでいる人気ブロガーで現役指導者でもある、らいかーると氏と著者による“戦術クラスタ”対談の後編をお届け!らいかーると氏の指導現場でもある日本の育成を中心に、ポジショナルプレーだけでなく「和式」から「ゲームモデル」まで幅広く語ってもらった。

インタビュー・文 足立真俊(footballista編集部)

「再現性がない?」VS「自由でこそ輝く?」

――らいかーるとさんは今季のJリーグで「ポジショナルプレーVS和式」という構図が顕在化しつつあるとTwitter上でおっしゃられていましたよね。ただ、“戦術クラスタ”の間で取り上げられる「和式」にも様々な定義があるかと思います。らいかーるとさんはどのように解釈されているのでしょうか?

らいかーると「和式という言葉を使っている人が大勢いる中、それぞれの定義がバラバラなので難しいんですけど、『日本的なサッカー』というニュアンスです。じゃあ、日本的なサッカーってどういうものかというと、『選手の発想・個性を大切にするサッカー』だと捉えています。昔から言われていましたが、例えば海外のフィジカルが強いチームに対して、『日本人が正面からぶつかるとどうしても勝ちづらいから、選手同士の距離を狭くして高速パスで打開しましょう!』というアイディアが実際にありました。ザッケローニ時代もフル代表がそうなってしまう傾向が強かったので、日本でサッカーをやっている人のDNAに刻まれているのかもしれません。

 その結果、『一人ひとりの役割がいい意味でも悪い意味でも曖昧になる』のが和式のサッカーだと思います。そういうサッカーでは、一人ひとりがボールを持った時に無限の選択肢の中から自分で最適解を選ばないといけなくなる。そこにはあまり『再現性』がないから結構大変ですが、好き勝手できるので自由は謳歌できる。それがすごく合う選手もいれば、きつく感じる選手もいます」

結城「ポジショナルプレーの考え方は、それほど属人的ではありません。同時に、厳しく選手を戦術で縛りつけるわけでもない。そういったバランスこそが、ヨーロッパで成功を収めている要因だと考えています。スペイン人指導者の言葉を借りれば、ヨーロッパは日本と比べて個人主義的なので『我が強い選手たちを、自分たちが操られていると感じない状態』でチームの戦術の中で動かすために『ポジショナルプレーという基準』が求められてきたという考え方も存在するようです。

 そう考えると、より協調的・集団主義的な性質を持った日本人とポジショナルプレーの相性は悪くないのかもしれません。日本のサッカーは、選手が変わった途端にやることが変わっちゃうことが多いですよね。日本代表でも『2列目の選手が変わるとやるサッカーが変わる』というのは利点になることもありますが、チームとして再現性・継続性を持つことができないという難しさでもあります」

――例として挙げられた2列目の選手に目を向けると、日本には中島翔哉や堂安律に加え、久保建英も台頭してきているように素晴らしいタレントがそろっていますから、なおさらもったいないですよね。

らいかーると「でも、堂安や中島は代表だと気持ち良さそうにプレーしていますよね」

結城「彼らは所属クラブでは、若干プレースタイルを変えていますからね。代表では、規律から解き放たれたかのようにプレーしている。あの2人は『緻密な戦術にはめると気持ち良くプレーできないタイプ』なのかもしれません。堂安はオランダのアナリストにも、『周りを使う能力はあるので、もっとチームの中で技術を活かす方向に成長してほしい』と評価されていましたが」

らいかーると「そういう見極めは本当に難しいですよね」

結城「日本である程度自由を与えられて育ってきた選手が、欧州でどうやって適応していくのかはとても興味深いです。中島もポルトに移籍してもっと戦術的な縛りが増えるでしょうから、今後どうなっていくか要注目ですね」

――そう考えると、選手は育成年代からポジショナルプレーのような一定の枠組みの中でプレーしていく必要があるのでしょうか?

らいかーると「すでに日本でもやっているチームはやっています。ただ、それをやっている選手がトップに上がってくるかというと、話は別です。日本サッカーにはいろんな評価軸が混在していますからね。それこそ、『ポジショナルプレーを個の力でぶっ壊す選手がプロになっているだけ』かもしれません。例えば知名度の高いユースチームはタレントが自然と集まってくるので、細かいことをしなくても勝ててしまいます。だとすると、むしろバラバラの方が選手に求められるものは多いことは事実です。『今日は相手が[4-4-2]だから、こっちも[4-4-2]で目の前の相手ぶっ倒してこいよ!』っていうサッカーの方がポジショナルプレーよりもある意味きついです。でも、その競争の中で勝ち残っていく選手もそれはそれですごい選手だと思います。そういう選手が急に枠組みにはめられたら、なんだこれは!?ってなるのも当然です。ポジショナルプレーを実践しているマリノスでもついていけない選手はついていけないと思いますし、育ってきた環境との差に適応することは非常に難しいでしょうね。

 一方で、ポジショナルプレーというよりも『しっかり顔を上げて、ちゃんと見て、プレーするチーム』は徐々に増えてきていると思います。そうやって育ってきた選手たちは、ポジショナルプレーという枠組みを与えられても、対応できるんじゃないかな。それこそ、バルセロナに行った安部(裕葵)が当てはまるのではないでしょうか。初めて見た時からそうでしたが、シンプルに技術が高いですし、ドリブルも巧い。さらに、顔も上がっていたのでそういう教育を受けてきたんじゃないかな!と思います。だからこそ、バルセロナに引き抜かれたのかもしれません。しっかり見てプレーができる選手を育てよう!っていう流れは今の日本の育成年代の中で、徐々に芽生えてきているので、それはいい流れだと思います」

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最終更新:8/14(水) 15:06
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