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まるで軍艦と一体化した三船敏郎の重厚な司令官――春日太一の木曜邦画劇場

8/13(火) 17:00配信

文春オンライン

 三船敏郎を語るほとんどの場合において、必ずと言っていいほど付いてくるフレーズがある。それは、「サムライ」。その人生を追ったドキュメント映画にも、追悼のムック本にも、評伝本にも、タイトルに「サムライ」が入っている。

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 それだけ、黒澤明作品をはじめ幾多の時代劇で見せた「サムライ」としての姿は三船のイメージを決定づけるにふさわしいカッコよさがあった。同時にそうした三船の姿は多くの人――それは外国人を含めて――が思い描く「サムライ」像のイメージとして定着した。だからこそ、三船=「サムライ」が一対になっていったと考えられる。

 ただ、もう一つ。三船の魅力を語る上で欠かせない役柄がある。それは、軍人である。もちろん、多分に「サムライ」的な要素のある役柄ではあるが、そこでは時代劇でのワイルドな動的な姿とはまた異なる三船の魅力に出会える。

 今回取り上げる『太平洋奇跡の作戦 キスカ』も、そんな一本だ。舞台は太平洋戦争後半。悲惨な戦況が続く日本軍での、数少ない成功した作戦の顛末が描かれている。

 米軍に制空権を握られ劣勢を強いられる太平洋北方、アリューシャン列島の島々。アッツ島では日本の守備隊が玉砕しており、同じ列島に位置するキスカ島でも、守備隊の命運は風前の灯となっていた。

 本作で描かれるのは、その救出作戦。そして三船は、島へ向かう艦隊を率いる司令官・大村少将を演じている。

 島を取り囲む米軍艦隊に見つからないよう、周辺海域に濃霧が立ち込めている間に艦隊を沿岸まで突入させ、待機する守備隊を乗り込ませる。それが、作戦概要だ。

 周囲全て敵の中で遂行されるため、一つの小さな判断ミスが艦隊も守備隊も悲惨な状況に追い込むことになる。それでも大村はどんな窮地に陥ろうとも慌てず騒がず、泰然自若の姿勢を保って冷静に的確な判断を下していく。

 島まであと一歩のところに辿りつきながらも霧が晴れてきたことで引き返す判断を下す慎重さを見せる一方、後続の艦が濃霧のためはぐれた時は米軍に見つかる危険性も顧みずに大砲を放って合図を送る果断さも持ち合わせる。

 こうした命令を下す際の、三船が素敵だ。決して表情を動かさず、感情を表に出さず、多くを語らず。ただ低い声でシンプルに命令だけを伝える。そして、そこでの威風堂々たるたたずまいは司令官としての器の大きさを感じさせてくれる。その静かなる重厚感はまるで軍艦と一体化しているかのようにさえ映っていた。

 ドッシリと構えた「静」な三船の魅力。この作品を通して、ぜひとも浸ってほしい。

春日 太一/週刊文春 2019年8月15・22日号

最終更新:8/13(火) 17:00
文春オンライン

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