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VECLOS新スピーカーの特徴を際立たせたDiracのオーディオ技術 ー 今後の展望を聞く

8/14(水) 7:00配信

PHILE WEB

新生オーディオブランドのVECLOS(ヴェクロス)が、独自の真空エンクロージャー技術を採用するワイヤレススピーカー「SPW-500WP」を発売した。本機はデスクトップ環境で楽しむサウンドに驚くほどの立体感を加える、Dirac Research(ディラックリサーチ)の音響技術を採用したオーディオ製品としても見逃せない。

今回はサーモスでVECLOSを担当する池田裕昭氏にあらためて新商品の特徴をうかがいながら、Dirac ResearchのErik Rudolphi氏、ならびに本機が搭載するスピーカーユニットやアンプの設計に技術を提供したパイオニアのサウンドスペシャリスト山下 力氏を迎えて、SPW-500WPの誕生秘話を語っていただいた。

■VECLOSの新スピーカーがDiracの技術を採用した理由

SPW-500WPはユニークな筒型デザインの真空エンクロージャーを採用するスピーカーと、アンプを一体化したワイヤレススピーカーだ。本機の実力についてはファイルウェブで詳しくレビューしているが、今回は本機の大きな特徴のひとつである切れ味鋭く立体的なサウンドとDirac Researchのテクノロジーとの結びつきを深く掘り下げてみたい。

SPW-500WPは国内のAV機器として初めて「Dirac Panorama」の機能を採用した製品だ。VECLOSがDirac Researchの技術を採用するに至った経緯をVECLOSの池田氏が次のように語っている。

「SPW-500WPは当社が2015年に発売したSS-A40以来、久しぶりに発売する電源内蔵のBluetooth対応ワイヤレススピーカーです。本機のアイディアが立ち上がった当初、パイオニアの方々からDirac Researchのテクノロジーをご紹介いただき、このユニークな立体音響技術を当社の新しいワイヤレススピーカーに活かしてみたいと考えて採用を決めました」(池田氏)

パイオニアはDirac Researchのオーディオ技術のライセンスを日本国内に提供する総代理店業務を行っている。パイオニアの山下氏には、当時からDirac Researchの技術がVECLOSの真空エンクロージャーと相性がとても良いということに確信を持っていたそうだ。

「当社も今から約3年前に、Dirac Researchが新たに発表したDirac Panorama Soundの技術紹介を受けました。VECLOSの真空エンクロージャーの中に2つのスピーカーユニットを水平対向配置にして、Dirac Panorama Soundの技術を組み合わせたプロトタイプを試作してみたところ、オーケストラの音源を再生した際に見事な立体感が再現できました。その成果を持ってぜひにと、私たちからVECLOSの方々にお勧めした次第です」(山下氏)

VECLOSの池田氏も、その時に初めて聴いた試作機のサウンドに良い手応えを得たと振り返っている。

「VECLOSのスピーカーシステムは真空エンクロージャーを活かすための、筒型のデザインを共通の特徴としています。SS-A40は左右別筐体のステレオスピーカーですが、次のモデルは立体感あふれるステレオ再生を一体型の筐体で実現したいと考えていました。Dirac Researchの技術は私たちの期待を具現化してくれるものでした」(池田氏)

SPW-500WPには、スピーカーの音場を補正する技術の「Dirac HD Sound」が搭載されている。このDirac HD Soundがあることにより、このスピーカーに正対して音を聴いた時に、正確に定位感と豊かな包囲感の両方を味わうことができるのだ。

本機が国内のAV機器として初めて搭載した「Dirac Panorama Sound」は、左右のスピーカーから出力された音が耳に届く時に発生するクロストークを解消して、チャンネルセパレーションの明瞭度を最大化するための音場補正技術だ。Dirac HD Soundは常時オンの状態で効果を発揮しながら、Dirac Panorama Soundについてはユーザーが本体のボタンからオン・オフを選んで楽しめる。このほかに低音再生を補強するパイオニアの「BEAT BLASTER」の効果を掛け合わせて、ユーザーが好みのサウンドバランスを楽しめところが本機の魅力だ。

Diracの技術をどう活かすか
■Diracはオーディオ信号処理技術のエキスパート

Dirac Researchは今から約18年前に、スウェーデンの名門ウプサラ大学で電気信号処理を研究していた博士号を取得したばかりの若い教授たちが起業したスタートアップだ。現在はスマートオーディオの技術と製品を手がける多くの名門ブランドが集まるデンマークのコペンハーゲンにも拠点を広げて成長を続けている。

同社には4つの異なる事業の柱がある。そのうちのひとつが、SPW-500WPなどワイヤレススピーカーが含まれるハイパフォーマンスオーディオであり、他にはスマートフォンにタブレット、PCなどのモバイル、オートモーティブ、ゲーミングにより構成されている。

スマートフォンやタブレットなど、筐体が小さなデバイスで高品位なサウンドを再現するための音場補正技術は、元よりDirac Researchが得意とする領域だ。近年ではさらにモバイル端末向けSoCの処理性能が向上してきたことから、「Dirac Researchがモバイル端末のユーザーに理想的なエンターテインメント環境を届けられる技術が成熟期を迎えつつある」とRudolphi氏が話している。

同社がモバイル端末向けに開発した「Dirac Power Sound」は、スマホやタブレットが内蔵する小型スピーカーユニットから歪みのないパワフルな音を引き出すための音声信号処理技術だ。低域補正技術の「Dirac Bass」を採用する端末メーカーも増えているという。

Dirac Researchは今年の春に「Dirac Distortion Control」というモバイル端末向けの新技術をMWC 19 Barcelonaを舞台に発表した。Rudolphi氏がその技術の特徴を次のように説いている。

「例えばモバイル端末でクラシックピアノやボーカルを聴くと音の歪みが気になることがあります。Dirac Distortion Controlは小さな筐体の端末に発生しがちな筐体の不要共振を抑えて、クリアなサウンドを再生するための技術です」(Rudolphi氏)

ホームオーディオとモバイル、それぞれの領域で培ってきたノウハウを掛け合わせながら次々とウィットに富み、かつ実践的なテクノロジーを生み出せるところがDirac Researchの大きな強みであると言えそうだ。

■アンプとスピーカー、Diracの技術を丁寧に合わせこんだ

SPW-500WPに内蔵されているアンプの設計は山下氏をはじめとするパイオニアのエンジニアが担当している。「私自身がバッテリーで駆動する製品を初めて設計する機会になったので、最初に基本の動作条件を整えてから、バッテリーを効率よく動かすための回路設計のブラッシュアップに注力してきました」と、山下氏は開発初期の取り組みを振り返っている。

Dirac Researchの機能は専用のハードウェアモジュールによって供給されるため、山下氏はSPW-500WPのために新しく開発したオーディオ回路にこれを丁寧に組み込むことにした。なお内部ではBluetoothモジュールで受けたデジタル音楽信号をI2S出力により取りだして、デジタル入力のアンプICにそのまま直接送り込むシステム構成にしている。これによりノイズを抑えたクリアなサウンドが実現できるという。

全体のサウンドを整えて行く段階で難しかったことについて、山下氏は次のように話している。

「スピーカーは小さいながらもストロークを稼いで、深みのある低音が出せるユニットを使っています。さらにマグネット部分のストロークが長いロングボイスコイルを組み合わせました。さらに筐体内部に搭載するバッテリーパックのサイズを調整して、スピーカーユニットが最大幅のストロークを確保できるように設計しています。スピーカーユニットもこれに伴って2〜3回以上は仕様を変更してきました。ふたつのユニットが対向配置になっていると高域の特性はどうしても下がるものですが、Dirac HD Soundを搭載したことでフラットなバランスに整えることが容易にできたと思います」(山下氏)

元のスピーカーユニットの品質にこだわり、筐体との調節を綿密に行った上でDirac Researchの技術を効果的に組み合わせたというわけだ。この日のインタビューの機会に完成したSPW-500WPのサウンドを、iPadをスピーカーの前に配置した状態であらためてRudolphi氏に聴いてもらった。Rudolphi氏も「驚くほどに広がりが豊かで、センター位置の音像が際立つ立体感に圧倒された。VECLOSのスピーカーの差別化に当社の技術が貢献できたことを嬉しく思う」とコメントを寄せた。

■オーディオやゲーミングの分野に広がりが期待されるDiracの技術

今回のインタビューではRudolphi氏に、Dirac Researchの今後の新しい技術開発の展望について聞くこともできた。「今回VECLOSに形にしていただいたことを追い風にして、ワイヤレススピーカーやスマートスピーカーの音質向上を図ることができる技術として、これからも多くのブランドに採用を呼びかけていきたいと考えています」。

現在同社ではホームオーディオ向けに、スピーカーで再生しているオーディオコンテンツに合わせて音の聴こえ方を自動的補正する技術や、ヘッドホン再生時にミキシングエンジニアの作業環境の音場を忠実に再現するエミュレーション技術の開発を進めているという。また世界的に今後大きな成長が見込まれるゲーミングのデバイスやコンテンツによるオーディオ体験を最大化する技術についても、同社の得意分野として伸ばしていきたいとRudolphi氏は意気込みを語ってくれた。

まだSPW-500WPが発売されたばかりだが、今後もVECLOSとパイオニア、Dirac Researchのコラボレーションがさらに深みを増して、新たな製品にも展開されていくことを期待したいと思う。

(山本 敦)

山本 敦

最終更新:8/20(火) 10:30
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