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『OUT』から『路上のX』へ:桐野夏生が「出口が見えない」少女たちを描いた理由

8/15(木) 15:09配信

nippon.com

過酷な状況と闘う女性たちを描いてきた桐野夏生さんは、『路上のX』で「JKビジネス」に搾取されている少女たちをリアルに描いた。「このままでは終われない」と続編も予定しているという。いま若い女性たちを描くことにこだわるのはなぜかを聞いた。

犯罪に手を染める弁当工場の深夜パートの主婦たち(『OUT』、1997年)、夜に街娼(がいしょう)として買われることに生きがいを見いだす一流企業のOL(『グロテスク』、2003年)、長く過去を封印していた元連合赤軍の “女性兵士” (『夜の谷を行く』、17年)。四半世紀以上にわたり精力的に作品を刊行し続けている桐野夏生さんは、これまでさまざまな女性たちを描いてきた。過酷な状況でもがくヒロインたちの姿から浮かび上がるのは、現代日本社会が抱える闇や構造問題だ。

2018年刊行の『路上のX』(朝日新聞出版)では、居場所をなくし、周囲の男たちや「JKビジネス」に搾取されていく女子高生たちを描いた。来春には週刊朝日で続編の連載開始が予定されている。

渋谷をさまよう少女たち

『路上のX』の主人公、真由は16歳の高校1年生。両親が夜逃げをして、引き取られた叔父の家族と折り合いが悪く、居場所をなくして渋谷をさまよう。バイト先でレイプされて逃げ出した真由に救いの手を差し伸べるのは、17歳の “リオナ” だ。「JKビジネス」で生活費を稼ぎながら、客の一人だった東大生のマンションに居候している。そこに真由、リオナの友達でボーイフレンドの子を身ごもった “ミト” も加わり、あてのない同居生活が始まる。

リオナは、必要に迫られてJKビジネスの「裏オプション」(性的サービス)に応じることもあるが、真由にはそんな仕事をさせたくないと思っている。だが、まだ現実を知らない真由の心は揺れている。読者は、3人の少女たちの危うい共同生活がどこに行き着くのか、罪を犯したり、犯罪に巻き込まれたりしないかとハラハラしながら読み進めることになる。

本作執筆のいきさつを、桐野さんはこう語る。「最近の若い女性の貧困問題から、希望のない状況が伝わってきます。若い世代には専業主婦願望が強いともいわれるけれど、未来が閉ざされているからではないかという気がして。それで、彼女たちが何を考えているのか、小説を書くことで探ってみたいと思ったのがきっかけです。ただ最初はあまりネガティブな方向ではなく、女の子たちが連帯して抑圧に抵抗する物語を考えていた。でも、現実を知るにつけて、どうしようもない社会構造の問題なので、そんな展開にはできないなと…」

どう書き始めるか模索していた時に、困難を抱える少女らを支援する活動を行う「Colabo」代表・仁藤夢乃さんの著書『難民高校生』を読んだ。高校を中退して「渋谷ギャル」として生活していた頃の自伝だ。両親の不仲で家に居づらくなり街を徘徊(はいかい)していた頃の自分と、仲間の女子高生たちの状況が描かれている。仁藤さんから話も聞き、改めて居場所を失った少女たちの厳しい現実を実感したと言う。

同じ頃、ある痛ましい事件の記録が目に留まった。2014年、愛媛県伊予市で17歳の家出少女が集団暴行の末に死亡した事件だ。10代の少年少女たちのたまり場となっていた市営住宅の押し入れから、被害者の遺体は見つかった。「雑多な男女が集まる危険な場所です。なんでそんなところにいたのか。そこしか居場所がなかったからです。それで、親から虐待されたり、放置されたりして居場所のない女子高生の物語を書いてみようと思いました」

連載を書き進めながら、夜の秋葉原や渋谷、新宿の街を歩き、少女たちの様子を観察した。元JKビジネスの経営者やスカウトマンの取材もしたと言う。「母子家庭はアツい」―経済的に困窮しているので風俗産業やJKビジネスに取り込みやすいから―とか、17歳以下の女の子たちは「肉の付き方が違う」「恋愛対象だ」などと目を輝かせて語る中年男たち。その根底には、お金を欲しがっている女の子の欲求を満たしてやっているという優越感、差別意識はあっても、彼女たちの心と体を搾取しているという罪の意識は全くなかった。

「“援交”(援助交際)という言葉がはやった90年代には、どちらかといえば女子高生がおじさんをだましてお金を取るような面もあったかもしれません。“ブルセラショップ” で女子高生が下着を高く売ってお小遣い稼ぎをするとか。でも今では、少女たちが完全に搾取されている側にいます」

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最終更新:8/15(木) 15:09
nippon.com

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